あなたが私にくれたもの・・・(最終話) | 金子光希オフィシャルブログ「そらとぶおにいちゃん」Powered by Ameba

あなたが私にくれたもの・・・(最終話)

2007年12月27日


この日、四年間を共に走り抜けた愛馬が引退する。


師走の慌ただしい雰囲気の中、俺は彼に別れを告げるために厩舎へと向かった。

明日からは、お互い別々の道を歩んでいく。

相棒は北海道で余生を過ごし、俺は新たな出逢いを求め日々の調教に精をだす。


ふと寂しさからか、目頭が熱くなり、自然と上を向いた。
そこには雲一つない青い空が広がり、ぼやけた視界に優しくしみた。


泣き虫だな俺…


でも泣くことなんてないんだ。会おうと思えばいつでも会える。
今は、共に頑張ってきた愛馬に、しばしの別れを告げるだけなんだ。


厩舎に着き、すれ違う人々に挨拶する。
厩舎は四年前と変わらぬ姿で、そこにあった。

そっと戸を開け、相棒の顔を見つける。

しかし、そこには四年前のテレジェニックの姿はなかった。

透き通りキラキラ輝くその眼には、かつての憎悪とも思える闇が消え、優しく温かい光りが宿っていた。

愛馬に近寄り、そっと額を撫でる。

最初、戸惑って頭を上げていた彼は、すぐに落ち着きを取り戻し、頭をすり寄せてきた。

四年前が信じられない。

確かに、年を重ねる毎に落ち着いてきた。

多少の気難しさは残っていたが、調教も大分乗り易くなった。


年をとったから、おとなしくなった。と言ってしまえばそれまでだが…
ただ年を重ねたからだけでなく、一生懸命に世話をしていた友のおかげだと俺は信じている。


俺はゆっくりと彼の前髪を手櫛で梳かしながら、優しく愛馬に語りかけた。


「もう苦しい思いはしなくていいんだよ。今までありがとうな…」


そんなことを気にもとめず、相棒は無邪気に俺の服を噛んで遊んでいた。


「俺はお前に逢えて、本当に良かったと思う。お前は俺に逢えて良かったと思うか?」

分かってはいたが、相棒は何も語ることはなかった。


いよいよ出発の時間がやってきた。
俺とケンタも、厩舎が解散した3月からは、今までのように一緒に仕事をすることはないかもしれない。

一足先に旅立つ仲間を見送りに、三人で馬運車へと向かった。


今まで共に歩んだように、一歩一歩しっかりと大地を踏みしめながら・・・


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昔から競馬に乗りだした若い騎手に、目上の人間はこう言う。

「馬に競馬を教えてもらえ。」

これはベテランの競走馬の方が、お前達よりも競馬というものを良く知っている。
という事を言ったものだ。


人間が馬を作り、その作った馬が人間を教えていく。

俺は様々な物事をテレジェニックに教えてもらった。

事実、テレジェニックという馬がいなかったら障害騎手・金子光希は存在しなかったのではないかと思う。

そしてこの馬がいなかったら、俺を支えてくれる多くの方々とも出会えなかったと思う。


母と父から産まれ、師匠に出逢い、そしてテレジェニックに巡りあった。

書いてはいないが、俺は今まで関わってきた人々にも、沢山のものをもらった。

父が

母が

師匠が

テレジェニックが



そしてこれを読んでいる
「あなたが」

私にくれたもの・・・


それはきっと今まで歩んだ過去と、この先歩んで行く人生。
金子光希という人間を形成する、全ての「もの」。


いつか俺も、人々に頂いた「もの」を誰かに与えられるような人間になりたいと思う。

相棒との別れ
<終>




あとがき

皆さん、こんばんは。
長い話をすみません。寮長です。

いやー、メッセもコメントも本当に嬉しい言葉が並んでいたのですが、
なんか僕自身が妙にイメージアップしちゃった感が否めなく、怖くもあります。

実際、皆さんが思ってる以上に、僕はテキトーなとこあるし、だらしない所も一杯あるんです。

そして自分自身、あまり苦労したとか思ってないんです。
ただ、目の前にある「やらなきゃいけない事」をやってただけでして、
成り行きにも近いものがある感じがします。


また、こんな世の中、僕なんかより、もっともっと頑張っている人も、苦しんでいる人もたくさんいる。

辛いときは、たしかにキツイものですが、過ぎた今では、その分幸せです。

だって、こんなに応援してくれる方々がいるんですから。

ポジティブ星人の僕は、来てくださる一つ一つのアクセス数だけでも喜べちゃうんです。

えへへへ・・・

では最後に、どんな時も「もの」・感謝の気持ちを忘れさせてくれない皆さんに、もう一度心からありがとう!