『教え子』 【第1回感動ストーリーコンテスト優秀作品4作目】 | 心温まる感動ストーリーを通じて感動を科学する!

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『教え子』 (埼玉県:越智由季子様)


その青年S君と会ったのは、今から13年ほど前の、
2学期が始まったばかりの9月のことでした。
私は、大学在学中からずっと塾講師、家庭教師を務めています。
ただ、家庭もあり子どももいるため、正社員ではなく、条件に合った職場を移動していました。
その年は夏休みに、小学校低学年の指導を行って、やはりもう少し大きい子を教えたい、
できれば受験指導をしたいと思い、新しい職場を探していました。

首都圏に何十教室もある大手進学塾の地元教室で、とんとん拍子に話が進み、
9月の新学期から、いくつかのクラスを担当することになりました。
あとで、採用事情を知るにつけ、「縁があった」としか思えないできごとでした。

経験豊富ということで、研修もなくいきなり教壇に立つことになり、
まかされたクラスの中の一つ、中2の最上位クラスにS君はいました。
このクラスは、S君初め、大変優秀な生徒が多い学年で、
首都圏に当時50以上もあった校舎の中でもトップクラスということでした。
とてもやりがいがあるクラスでもあり、また別の意味で思い入れのある学年でもありました。
それは、私の一人娘と同じ学年だったことです。
但し、娘は当時は彼らと全く違った進路を目指しており、
勉強よりも芸術方面のレッスンに重きを置いていました。
それでも、同い年ということで、彼らには格別の親近感もあり、
彼ら自身も違和感なく受け入れてくれました。

私の指導は、時には厳しく、時にはユーモアも交えて行います。
それについてこられる生徒には、この上なく楽しく役に立つものだと思います。
その中で、S君はムードメーカーであり、いじられ役でもありました。
ついやりすぎてしまい、受験生になってからはナーバスになっている彼を刺激して、
怒らせてしまったこともあります。
それでも、お母さまはクレームを寄せるではなく、逆に息子さんを
「先生は、あなたをとくに親しく思っているから他の子よりいじるのよ」となだめてくださいました。
ありがたいとしか言いようがありませんでした。

指導から半年、彼らは受験を迎えました。
期待通り、全校舎1の実績を挙げ、私たち担当講師に喜びと誇りをくれました。
いわゆる「御三家」と呼ばれる超難関校にS君を含む3人が合格しました。
しかし、S君はそこに進学せず、大学付属校への道を選んだのです。
もっとも、その大学も日本の私学では双璧と言われるところの一つですが。

高校に進学してからも、S君からはたまにメールで相談などがありました。
会うことはありませんでしたが、娘ともメール交換はしていたようで、
近況などは知るところでありました。
そんなS君と、思わぬことで新たな縁ができることになりました。
全く別の進路を選んでいたはずの娘が、S君と同じ大学に進学することになったのです。

そして大学の入学式の日です。娘の高校は特殊なところ(別の大学の付属)のため、
同じ大学に進学する人はいません。
小中学校の同級生でお母様とも知り合いであるお子さんは、何人かこちらに入学されるようですが、
マンモス大学のため、学部ごとに式の時間が違います。
S君の学部は、娘の学部とは違いますが、ともに第一部。
S君に、「お母様とご一緒していいかしら?」と聞いてもらったところ、快諾してくれました。
当日は大学の最寄の駅からすごい混雑、バスを降りるとめまいがするほどでした。
S君のお母様と無事式典を見ることができ、
あらかじめ約束しておいた店で子ども達とも合流することができました。
そして別行動でいらしていたお父様にもご挨拶しました。

その後、娘とはたまに学内ですれ違ったり、
共通の友人ができたり(S君は付属校ですから、同級生も多いのです)
以前とは違った形の交流が始まりました。
お互いに家が同じ市内のため、誘って一緒に食事をしたことも、
我が家に遊びに来たこともあります。
畑違いの高校からたった一人でその大学に進んだ娘に、
いろいろ情報をくれることもあったようです。

そして卒業式。娘はストレートに卒業し、民間企業に就職も決まっていました。
しかし、S君は資格試験のために半期留年するということでした。
女の子の親として、卒業式は荷物持ちやらなんやらでてんてこまいです。
卒業写真の順番取りもしなくてはなりません。
S君に、大学隣接のホテルでのランチを条件に、
荷物持ちなどのお手伝いをしてもらうことにしました。

結局S君は超難関である資格取得を断念、地元の公務員として就職することになりました。
職場は、私の自宅の最寄り駅でもあり、街でばったり会ったこともあります。
誘って食事をご馳走したこともあります。
いつ会っても、礼儀正しい好青年でした。

S君の家は、大宮から1つ北の駅です。
私は都内ならともかく、大宮以北にはめったにいかないのですが、
たまたま、その駅に行く用事があり、終了が20時くらいの予定だったため、
S君に「夕飯でも食べない?」と声をかけてみました。
喜んで!ということで、楽しみにしていました。
そして、当日。
会うなり「先生、何がお好きですか?今日は僕にご馳走させてください」と言ってくれるのです。
大人として、まだ若い子にご馳走になるなんてとんでもないとは思いましたが、
真剣な彼の顔を見て、その日は甘えることにしました。
もちろん、あまり負担にならないような店を選びはしましたが。
電車の都合があるので、長時間は同席できませんでしたが、
昔の話、今の話、話が弾んであっという間でした。
私が「浦和駅からの便があるから、22時には帰るね」と言ったら
「ここからタクシーで帰ってください。自分が出しますから」とまで言うのです。
さすがにそこまでは甘えられませんが、その気持ちがとても嬉しかったです。

帰りの電車の中で電車「ご馳走様、本当は私が奢らなければならない立場だけど、
今日は厚意に甘えますね」とメールを送ったところ、以下の返事が返ってきました。
「自分が今あるのは先生のおかげですので、恩返しするのは当然です。
大したお構いもできず、申し訳ありませんでした。
今度はもっといいお店でご馳走することを目標に日々の仕事をがんばります」

号泣です。メールを開けたのが自宅でよかったです。
一人暮らしの私は、 たまらなく淋しくなる夜もあるけれど、私には宝物がたくさんある。
ダイヤモンドより輝く宝石、それは教え子たちの存在。

この仕事を選んで、本当によかったです。
ほんの一時関わっただけの私に、
こんな素晴らしい言葉のプレゼントをくれたS君に心から感謝するとともに、
幸せな人生を送ることを願ってやみません。




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