内田洋子『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』(文春文庫)
「本が本を連れてくる。
モンテレッジォ村との出会いは、それ以外には説明がつかない」
―「6 行け、我が想いへ」より
著者の内田洋子さんはイタリア在住の報道記者。
ある日行きつけの古書店の店主から、自分たちのルーツだという「モンテレッジォ村」の話を聞かされる。
何世紀にも渡って本の行商で生計を立て、イタリアに読書を広めたという村。
一体どんな場所なのか? なぜ本売りをしていたのか?
「行ってみることですね」
何かに突き動かされるように、内田さんはモンテレッジォに向かう。
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トスカーナ州にある山深い小さな村、モンテレッジォ。
採れるのは石と栗の木ぐらいで、村人は外の農地へ出稼ぎに行くことが多かった。
転機となったのは1816年。
世界的な寒冷化でヨーロッパ中の農作物が全滅。村人は稼ぎ口を失くしてしまう。
そこで目を付けたのが、天候に左右されない「本」の行商だった。
出版社から売れ残りを集め、各地で露店を開いて売ったのである。
折しもフランスでは革命が勃発、ナポレオンが活躍していた。
当時複数の国に分かれていたイタリアでも、その影響で統一運動が巻き起こる。
他国に支配されない独立国家を作りたい。
そのために必要な情報=本を人々は求めた。
書店に置いてある本は高くて買えない。
でもモンテレッジォの村人が出す露店なら安いし、気軽に手に取れる。
「高級ブランドの洋服は憧れだが、手頃な普段着は着るうちに肌に馴染んで手放せなくなるものだ。村人たちは、そういう本を売ったのである。読むことが、次第にその人の血肉となっていくような本を」
―「10 ナポレオンと文化の密売人」より
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「読む」ことを広めた名も無き行商人たちの物語。
写真も文章も素敵で、とても爽やかな気持ちで読みました。
景色も綺麗だし、料理もおいしそうだし……
イタリア行ってみたいな~
脚力を生かしてイタリアの隅々まで本を売りに行く。
小説や童話はもちろん、必要なら発禁本もこっそり売る。
行商人たちの行動力には読んでいて圧倒されてしまう。
露店での客との会話を、行商人はとても大事にしたと言う。
本の内容を丁寧に説明し、質問や感想は漏らさず聞く。
それを基に客の希望を把握し、新しい本を仕入れる。
訪れる1人1人の「読む」ことを大切にする姿勢。
理想の書店とはこういうものなんじゃないだろうか。
モンテレッジォにルーツを持つ書店は、今もイタリア各地に残っている。
彼らの精神はこれからも受け継がれていくのだろう。
「この山に生まれ育ち、その意気を運び伝えた、倹しくも雄々しかった本の行商人たちに捧ぐ」
―モンテレッジォの石碑に記された碑文
今日も読んでいただきありがとうございます。
それではまた。