まもなく東日本大震災から13年。
毎年この時期は震災にまつわる本を読んでいます。
今年はこの本を。
清水裕貴『花盛りの椅子』(集英社)
※癒される表紙。こちらを見つめる鹿がかわいい(本編には出てこないけど…)
「私たちは普通なら捨てられてしまうものを拾い上げる。他の人にとってはゴミにしか見えないものでも、そこに堆積している時間を丁寧に取り出せば、暗闇に隠された美しいものが、ふわりと立ち上ってくる」
―「五 私たちの寝床」より
被災した家具をテーマにした連作短編集。
著者の清水さんは写真家・デザイナーとしても活動されているそう。
被災地の報道では「瓦礫」で括られてしまう家具にもそれぞれの物語があることを教えてくれる作品です。
主人公の鴻池(こうのいけ)さんが勤める「森野古家具店」は、地震や台風などで傷ついた家具を作り直して売るお店。
ここの社長は家具の「気配」を何より重視しています。
「気配」とは家具に染み込んだ過去のこと。それぞれの「気配」を殺さずリメイクすることが大切だと言います。
古家具は時々、鴻池さんに何かを語りかけてきます。
襖から声がしたり、鏡に見知らぬ人が映ったり。
それらは元の持ち主との思い出や被災した時の記憶。
彼女は戸惑いながらも家具にまつわる過去を紐解き、ボロボロの状態からふさわしい形に作り替えていきます。
鴻池さんがリメイクした家具は「気配」が上手く生かされていて温かい。
普段クールで感情をあまり出さない分、作品に情感が溢れているのかも。
私が好きなのは「万祝い襖」に出てきた襖のリメイク。
あの発想はデザイナーさんならではだと思います。
「家具はその身に時間を蓄える。(中略)私は声を聞いて、磨き上げる。私たちは誰かの過去を集めて、気持ちのいい場所へ送る仕事をしている」
―「四 焼土鏡」より
津波の被害、街の混乱、震災に絡む暴力行為……
作中で語られる災害の記憶は想像を絶するものです。
鴻池さんも祖母を東日本大震災で亡くしていて、遺体は行方不明のまま。
震災さえなければ、祖母の本心がわかってお互い仲良くなれたかもしれないと思わずにはいられません。
家具をリメイクしても何かが解決することはなく、どの話もやるせなさは残ります。
それでも、新しい場所に置かれた家具=過去は被災した人々の新しい始まりになるはずだと信じたい。
ラストに出てきた砂浜の様子に、少し希望を感じました。
今日も読んでいただきありがとうございます。
それではまた。