こんばんは。


前回の記事で「暑くなってきました」と書いたと思ったら、ここ数日急に寒くなってきて、しまいこんだ掛布団とヒーターをもう一度引っ張り出すことに。すっかり冬の体制に逆戻りです。忙しいなもう(*_*;
週末の東京は平年並みの気温に戻るそうですが、気温変化のタイミングは体調を崩しやすかったりするので、冷たいものは控えて、なるべく体を温めておこうと思います。


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小説のスタイルの1つに「書簡体形式」というものがあります。
本編のほとんど(あるいは全て)が、手紙や報告書などで構成された作品です。
積極的に集めているわけではありませんが、好きな形式です。


現実の描写がないので、読み手は手紙の内容からストーリーを推測するしかありません。

しかも書き手の主観で書かれているわけだから、内容が必ずしも真実とは限らない。わざと嘘をついたかもしれないし、勘違いかもしれない。だから全体は常に不安定。
けれど、わからないところが多い分、想像の余地がたくさんある。書簡体小説の魅力はそこだと思います。


いくつか読んだ作品を思い返してみると…



小酒井不木「恋愛曲線」
「僕」が友人「A君」の結婚祝いに、恋愛の極致を表現したという「恋愛曲線」なるものを送りつけます。それに同封されている手紙が本編なんですが、読み進めるうちに、恋愛曲線の正体と「僕」の狂気が明らかになっていきます。半分くらい読めばオチはほぼわかってしまいますが、それでもラスト1行はゾクりとしました。「僕」のやったことが怖いというよりも、これを読んでいる「A君」の状況を想像するのが怖いという感じ。さすがにざまあみろとは言えない。

 

 

青空文庫でも読めます→小酒井不木「恋愛曲線」

 


江戸川乱歩「人間椅子」
作家の佳子のもとに届いた原稿用紙の束。そこに書かれていたのは、自作の椅子の中へ入り込み、そこに座る人々との「逢瀬」に溺れた男の独白でした。しかもその椅子が今ある場所は…
さすがは乱歩、変態の描き方も上手いです。想像するだけで気持ちが悪いのに、どんどん読ませてしまいますからね。オチを知れば一応安心できるでしょうか? 私はこの後どんでん返しがあるんじゃないかと疑ってます。

 

 

 

青空文庫でも読めます→江戸川乱歩「人間椅子」

 


平山夢明「れざれは恐ろしい」
教師の家に届いたいじめ告発文をきっかけに、学校で起きていた出来事の真相に迫っていく話。手紙や報告書、ネット掲示版の書き込み等だけで構成されていて、直接的な描写がない分、その裏に隠された「悪意」がより恐ろしく感じられます。最後の無邪気な手紙文が今も頭から離れません。「他人事」という短編集に収録された作品ですが、他の短編も後味の悪い話ばかり(「定年忌」や「クレイジーハニー」のようにぶっ飛んだ設定だとかえって安心してしまうんですけどね)。

 

 

 

 

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そして、夢野久作「瓶詰地獄」(瓶詰の地獄)
1年に1回は読み返すぐらい好きな作品です。

 

 

(角川文庫版の表紙。怪奇小説っぽいイラストですね)


海岸に流れ着いた3つの瓶に入っていた3通の手紙。
そこには、海難事故で無人島に流れ着いた幼い兄妹(太郎とアヤ子)が、2人きりで暮らすうちに、お互いを異性として意識するようになってしまい、悩み苦しんだ末に兄妹共々身投げしたという内容が書かれていた。

このシンプルな筋書きを手紙だけで表現したのはさすがの演出だと思います。


太郎とアヤ子は、世間とか社会とか、そういうのを全然知らない子どもで、新約聖書が世界のすべてといってよかったわけで。
初めて読んだときは「そんなことで自殺するかな?」と引っかかったものですが、これはもうどうしようもないことだったんでしょう。

しかもいやらしいのが、手紙を書いた順番と読む順番が逆なこと。
つまり心中する結末を見せた後で、なぜそうなったのかを解き明かしていく構成になっているわけです。悲劇の真相を知った上で3通目(最初に書かれた手紙)を読むと、「うわあ…」となって落ち込むこと請け合いです。


…とストレートに読むのもアリですが、よーく読むとあちこちに矛盾(例えば、手紙は誰にも読まれていないはずなのに、なぜ救助船が来たのかなど)があって、様々な解釈が可能だと言われています。そうした矛盾を踏まえてから読むと、内容がガラッと変わって見えるから不思議。


一応私は「遭難自体は本当にあったけど、幼い兄妹は遭難者の創作だった」という解釈をとっています。
去年読み返した時は「手紙の内容は全部でたらめだ」と考えたので、どうせまた気が変わるでしょうが(笑)。


10分もあれば読める掌編なのに、いくらでも違った読み方ができるというところがすごく好きです。
まだ当分は抜けられそうにありません。

 

 

 

青空文庫でも読めます→夢野久作「瓶詰地獄」

 


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今日も読んでいただきありがとうございます。


5月はGWもあるし、たくさん読めるかなーと思ったんですが、まだ3冊ほどです。積読本もまだ4冊ぐらいあるんですが、なかなかそっちに手が出せない(^^;
焦ってたくさん読もうとしてもいいことはないので、スローペースでもじっくり読み進めていきますね。


それではまた。