1 求められている能力

①民事訴訟法の基本的な原理・原則や概念を正しく理解するとともに,基礎的な知識を習得しているか,②それらを前提として,問題文をよく読み,設問で問われていることが何かを的確に把握した上で,それに正面から答えているか,③抽象論に終始せずに,事例に即して具体的に,かつ掘り下げた考察をしているか,といった点を重視して採点をしている。
(平成23年採点実感)

2 憲法に匹敵するほど出題者は怒っている

問われていることに正面から答えていなければ,たとえ設問に関連する論点を縷々記載していても,点数は付与していない。自分の知っている論点がそのまま問われているものと思い込み,題意から離れてその論点について長々と記述する答案や,結論に関係しないにもかかわらず自分の知っている諸論点を広く浅く書き連ねる答案に対しては,問われていることに何ら答えていないと評価するなど,厳しい姿勢で採点に臨んでいる。
問われていることに正面から答えるためには,論点ごとにあらかじめ丸暗記した画一的な表現(予備校の模範解答の類)をそのまま答案用紙に書き出すのではなく,設問の検討の結果をきちんと順序立てて自分の言葉で表現する姿勢が極めて大切である。採点に当たっては,そのような意識を持っているかどうかにも留意している。
…簡単に結論が出るような問題でないことは容易に分かるはずである。それにもかかわらずそのような悩みが全く感じられない答案が大多数であったことは,誠に残念である。
(平成23年採点実感)

法律実務家を目指す者の答案として不適切なものがある。繰り返しをいとわずに不適切な答案の例を挙げると,次のとおりである。
・論ずべき点が問題文で丁寧に示唆されている(設問1の「事実の自白の撤回制限効の根拠にまで遡った検討が必要」,設問3の「判例がある場合にはそれを踏まえる必要があります」など)にもかかわらず,これに注意を払わないもの。
・問われていることに正面から答えずに,結論に関係しない一般論を長々と論ずるもの,何か書けば点数をもらえると誤解していると思われるもの。
・論理を積み上げて丁寧に説明しようとしないで,抽象的な用語(禁反言,相手方の信頼保護など)のみから説明したり,直ちに結論を導いたりするもの。
・当該事案における結論の妥当性のみを追求し,論理的な一貫性を欠いていたり,理論的な検討が不十分であったりするもの。
…なお,採点実感からすると,合格者の答案であっても「一応の水準」にとどまるものが
多いのではないかと考えられる。当然のことであるが,合格したからといってよくできたと早合点することなく,学習を継続する必要がある。
(平成23年採点実感)

民事訴訟法の設問は難しいものばかりですが,設問1では基本的な制度から出題がされることが多いです。この基本的な問題こそしっかりと答えて下さい。
何よりも,弁論主義とか手続保障等のワードをあげただけで他の説明がないといった,知ったかぶりで中身がない答案を書かないように注意して下さい。難しいようですが,問われているのは奇問ではなく基本の応用ですから,基本を前提に考え,論理的に表現できれば大丈夫です。

3 4段階構造,手続きの流れを意識する
旧司の頃から言われていることですが,民事訴訟法の答案では4段階構造や手続きの流れを意識して,設問で問われているのはどの部分に当たるのかを考えた上で,その部分を支える基本原理に遡って思考するといいと思います。

●4段階構造
①訴訟物
(処分権主義)
②法律に関する主張
③事実に関する主張
(弁論主義第1・第2原則)
④立証の段階
(弁論主義第3原則,自由心証主義,証明責任)

●手続きの流れ
Ⅰ訴訟の開始(処分権主義)→Ⅱ審理内容(弁論主義)→Ⅲ手続きの進行(職権進行主義)

また,実体法上の権利義務または法律関係,つまり訴訟物についての理解は設問に解答するにあたって重要です。平成24年の設問2では参加的効力が問われましたが,係属する訴訟の当事者双方に補助参加する利益を有する者が,双方から訴訟告知を受けて板挟みになるという事案でした。問題文から当事者双方への参加の利益があることを読み取れるか=実体関係の理解を前提とできているかも重要と考えられます。

4 既判力の理解
平成24年では参加的効力でしたが,新司では判決効の理解が聞かれています。特に既判力は民事訴訟法の最重要概念であり今後も出題される可能性が十分にあります。
ここでは,論点の内容には踏み込みませんが,客観的範囲,時的限界,遮断効,主観的範囲等の言葉が何を表しているのか,各原理のつながりはどうなっているのかを理解できるように勉強してください。そのために一人で基本書を読むよりも,授業で質問するなどして深い理解ができるようにすることが重要だと思います。

5 基本概念の正確な理解と応用力

法科大学院教育に求めるもの
採点実感に照らすと,基礎的な知識を習得すること,すなわち基本的な概念を正確に,かつその趣旨から理解することの重要性を,繰り返し強調する必要があると思われる。司法試験では受験者が初めて考えるような問題も出題されるが,そこで求められる能力は基礎的な知識とそれを使いこなして考える能力であり,もとより法科大学院において特殊な論点や事例にまで手を広げて学習することを期待するものではないからである。事例の分析能力や事例に即して考える能力を涵養することももちろん重要であるが,これらの能力は基礎的な知識と能力の上に初めて成り立つものである。土台をおろそかにしたまま複雑な事例を分析させることは,今年の答案にも見られたように,論理的に突き詰めて考えることをしないで結論の妥当性のみを安易に追求する姿勢を助長するおそれがある。
(平成23年採点実感)

上記1とも関連しますが,基本概念の理解とそれを応用する力が問われています。採点実感では応用力と言ってのけますが,毎年難しい問題が出題されます。知っている細かな知識の披露を求められていないことは分かりきったことですので,基本の理解を前提にした応用問題が出題されることを意識し,問題演習を行う必要があるかと思われます。



<ポイント整理>
①基本的な原理・原則を正確に理解する
②抽象的な言葉のみで説明しようとせず,その具体的内容を書くこと
③ピラミッド構造・手続きの流れを意識する
④応用問題も基本的な知識からの積み上げであることを忘れずに