1 求められている能力

全体として,会社法の条文を的確に理解し,これを摘示することも求められている。
(平成24年出題の趣旨)

事実関係及び資料(株主総会参考書類と貸借対照表)を読んで,分析し,会社法上の論点を的確に抽出して論理的な整合性を意識しながら各設問に答えるという,基本的な知識と,事例解析能力,論理的思考力,法解釈・適用能力を試すものである。
(平成23年採点実感)

2 難しい論点ではなく,まずは条文や制度の正確な理解

自己の株式の取得に関する会社法の規律(財源規制及び欠損塡補責任を含む。)や自己株式の処分に関する会社法の規律(無効の訴えの制度を含む。)は,会社法の基本的な規律であると考えられるが,これらについての理解に不十分な面が見られる。また,貸借対照表を見て分配可能額を算出するという基本的な点や,取締役の会社に対する責任を含めて,事例における事実関係を読んでそれに即して論ずるという基本的な点に不十分な面が見られる。そして,基本的な判例を踏まえて,それに基づいて論理的な思考をし,また,その考え方を応用する能力にも不十分な点が見られる。会社法の基本的な知識に加えて,事例解析能力と論理的思考力を涵養する教育が求められる。
(平成23年採点実感)

受験生は会社法に関してはそもそもどのような条文がどこにあるのかをあまり知らない,条文はある程度は知っているが,その条文が規律する会社法の制度について基本的なものにかかわらず知らないというのが現状のようです。
まずは難しい議論にとらわれず,択一の問題に正確に答えられるような学習が肝要です。

㋒の瑕疵と本件自己株式取得の効力との関係については,無効説と有効説とがあるが,採点では,どちらの見解を採っても,その理由等が適切に述べられていれば,同等に評価した。さらに,㋐,㋑,㋒のそれぞれの瑕疵と本件自己株式取得の効力について検討した結果,その結論が有効と無効とに分かれることがあり得るが,全体として本件自己株式取得の効力をどのように考えるかにつき論理的整合性を意識しながら記述した答案には,高い評価を与えた。これに対し,㋒の瑕疵について有効説を採った上で,これに加えて㋐又は㋑の瑕疵があったとしても本件自己株式取得は有効であると特に理由を述べないで誤った解答をした答案が若干見られた。
(平成23年採点実感)

様々な演習教材で議論されているような難しい問題のみが聞かれているのではありません。採点実感でもこのように述べられているのですから,受験生の答案で不合格と判
断されている部分は,難しい問題への積極的な論述の有無という部分のみではなく,基本的な部分の正確な理解のもと,理由付けて結論を論じられるか否かにあると思われます。難しい議論の部分にも配点はありますが,それができるか否かは,「合格点を取る」という意味においては必須ではないでしょう。

3 条文の趣旨を大切に
会社法の条文は,探すことができればあてはめることができるものが多いです。しかし,例えば平成24年に出題された利益相反の直接取引のように条文の趣旨から論じた方が説得的になるものもあります。会社法では法解釈が必要な条文ではその能力があることをアピールできるよう,条文の趣旨を押さえておくようにして下さい。条文の趣旨を押さえることは択一の理解にもつながるのでとても有益です。

4 判例への言及

いずれの設問に対する答案においても,問題点を論ずるに当たって,判例があるような問題点であるにもかかわらず,判例に言及するものも少なく,丁寧さが十分とは言い難いと感じた。
(平成20年採点実感)

設問2において,まず,見せ金による払込みの効力が問題となる。しかし,「見せ金」の概念及び問題の所在を示した上で,本件事案が見せ金に該当するか否かを論じている答案は,少なかった。最高裁昭和38年12月6日第2小法廷判決(民集17巻12号1633頁)は,払込み後,当該借入金を返済するまでの期間の長短,払込金が会社資金として運用された事実の有無,当該借入金の返済が会社の資金関係に及ぼす影響という三要件により,見せ金に該当するか否かを判断し,見せ金による払込みは効力を有しない旨を判示しており,この判例を引用して解答すべきであるが,この判例に言及している答案はほとんどなかった。
(平成22年採点実感)

民法や民事訴訟法でも判例を前提とした出題がなされますが,商法でもこのような出題がなされています。したがって,上述のように,条文や制度を知っていることは基礎学力として必要ですが,やはり判例がある問題点については判例への言及が求められているといえます。特に機関に関する判例は択一にも多々出題されますので,論文で判例に言及できるような事案や要件(判断基準),結論を押さえる学習は択一対策としても有用です。

5 実務を意識した学習

設問1及び設問2の双方に関しては,利益相反取引に形式的に該当するとした場合であって
も,すべての株主の同意があるということになると,判例によれば取引は有効ということになりそうである(出題趣旨参照)が,本件事案のように債権者の保護が問題となる局面においても,そのような考えで本当によいのかといったような,実務家が事案の解決に当たる場合には当然に疑問が湧いてくるであろう問題点について,気を回して悩むといったような答案が極めて少なかった。法律の規定の解釈に関する学説や判例については,短答式のための勉強などでそれ自体は知識としては有しているのであろうが,さらに,それが実務上どのような意味を有することになるのかという問題意識を持っているかどうかが,このような設問に遭遇した場合に問われることになる。
(平成20年採点実感)

上述の判例への言及という意識や,民法で述べた結論の妥当性への意識と少し重なりますが,採点者はこのように述べています。単なる知識の習得,答案上への表現のみではなく,あくまで「この問題文に関してこのように設問がある場合」の解答が求められているのです。実務家登用試験ですから,実社会である法律問題が生じたときどのように対応するかという姿勢も問われるのは当然でしょう。普段の学習段階からの意識付けも大切だと思います。新株発行や株主総会の取消事由などについて,具体的な素材を新聞などで見つけた時に,読むだけではなくて少し考えてみることを,普段から積み重ねていくべきでしょう。

6 その他

例年指摘されていることではあるが,問題文に記載されている事実関係の法的意義を読み解くこと(事実関係への当てはめ)が不十分であり,その結果,法的論点についての理解に基づく踏み込んだ議論ができず,また,その前提として,当該論点に関する法令の規定や裁判例への言及もほとんどされていないということである。条文や裁判例を出発点として議論をするという法律実務家に最も必要な姿勢に欠けていると言わざるを得ないであろう。
(平成21年採点実感)

以上をまとめますと,やはり民法など他の科目同様のことが求められているようです。
判例への言及は採点実感でも繰り返し叫ばれていることなのですから,これができるような学習が,商法で良い点数を取るための勉強だと思われます。


<ポイント整理>
①条文を的確に明示する
②難しい議論よりも基本的な制度や条文構造を理解する
③条文の趣旨を大切に
④判例の言及
⑤実務を意識した勉強