1 求められている能力

採点に当たり重視していることは,①事案を正確に把握し,問いに対して的確に答え,解釈論のみならず立法論についても基礎的な知識を活かして相応の言及をすることのできる応用能力を有しているか,②法的な論述に慣れ,分かりやすく,かつ,受験者の思考の跡を採点者が追うことができるような文章を書いているか,という点である。決して知識の量に重点を置くものではない。
(平成23年採点実感)

2 行政法の判断枠組みを整理しよう
訴訟要件 ①処分性 ②原告適格 ③訴えの利益 ④被告適格 ⑤管轄 ⑥不服申立前置
⑦出訴期間
本案要件 実体法→資料として添付されている個別法の要件検討など
手続法→書き忘れる人が結構いるので要注意
行政法は上記のように必ず自分が何を検討しようとしているのか整理しなければなりません。時々不合格者答案を見ていると,訴訟要件の検討を本案要件の中でしていたり,その逆を見かけたりします。また,実体法の検討は多くの方が検討しているのですが,手続的瑕疵については見落としてしまいがちです。問題を解くときは上記のように思考を整理して検討しましょう。

3 誘導に素直に従った答案を書く

問題文及び会議録等を分析して,質問のポイントを押さえて素直に答えていく姿勢であれば,自ずから比較的高得点が得られるものであるが,知識の量はうかがわれるのに,会議録等を十分に考慮せずに自分の書きたいことを書いているため,相対的に低い得点にとどまっている答案が少なくなかった。
(平成23年採点実感)

問題文・設問・資料で明記・誘導されているにもかかわらず,記述の及んでいない事項(仮の救済・強制調査の問題点など)がある答案も少なからず見られた。問題文や設問等を十分に読んでいないと思わざるを得ない。
(平成20年採点実感)


【平成23年行政法設問2】
(2)Aが国土交通大臣に対し,要求措置に従う意思がないことを表明したため,国土交
通大臣がAに対し取消措置を執った場合,当該取消措置は適法か。解答に当たっては,関係する法令の定め,自治会の同意を要求する通達,及び国土交通大臣がAに対し執り得る措置の範囲ないし限界を丁寧に検討しなさい。
職員:よろしくお願いします。付け加えますと,地元の同意と定めているのは,国土交通省の通達の方であり,これもそもそもの話になるのですが,このような通達に定められたことを理由にして,許可を拒否してよいのですか。この点も教えていただければと思います。
弁護士:問題となっている通達の法的な性格をはっきりと説明するように,文書にまとめてみます。
職員:通達の中身について言いますと,地元の同意を重視している点は,自治体の職員としてはとてもよく理解できます。ただ,許可の取消しという措置まで執ることができるのかと問われると,自信を持って答えられないのです。
弁護士:法律家から見ますと,地元の同意を重視する行政手法には,問題点もありますね。国土交通大臣が本件許可の申請に際して地元自治会の同意を得ておくように求める行政手法の意義と問題点を,まとめておきましょう。その上で,疑惑が事実であると仮定して,国土交通大臣は,Aに対してどこまでの指導,処分といった措置を執ることができるのか,執り得る措置の範囲ないし限界についても綿密に検討しておきます。


行政法の問題には誘導がたくさんあります。
誘導といえばヒントと思いがちですが,実はこの誘導こそが真の設問なのです。行政法の設問は訴訟要件の有無や適法性が2行くらいで聞かれるというシンプルなものです。そうすると,訴訟要件があるか,適法か違法かを応えれば解答としては正しいと思えます。しかし,仮に論理的に正しく解答を導いても高得点とはなりません。それは,誘導に従っていないからです。誘導文にある「~を検討して下さい」とか「~しておきます」といった誘導はヒントではなく,そのポイントに答えなさいという指示なのです(平成23年の問題で下線を引いた部分は答えるべき部分です)。したがって,その指示を無視すると必然的にその部分の点数がなくなります。行政法で書けたと思っている人で点数が伸びない人はもう一度このような視点で誘導文を読んで見て下さい。

4 訴訟要件論は判例の研究を

同法第9条第2項の列挙する要素を羅列するだけの答案や,小田急訴訟大法廷判決についての知識はあっても,その理解が表面的であり,原告適格判断の基礎が身に付いていない答案が多く見られた。つまり,原告適格の有無が具体的にどのように検討されるべきなのかという基本問題について,理解がなお十分ではない。
(平成21年採点実感)

例年,設問1では訴訟要件を満たすかが聞かれています。特に平成23年,平成24年では原告適格,処分性に絞って検討が求められています。これは,過去に同じ論点が聞かれていたことから,再度の出題の場合はより深い理解が要求された反面,一つの議論に集中できるように論点が少なくなったということだと思います。
したがって,過去の再現答案ではある程度点数がついていた答案の記述の真似をしても,それほど点数が伸びないおそれがあります。
対策としては,授業で扱う基本論点に関する判例はケースブックや判例検索等の長文で判例の論理を分析し,適宜解説を読む等して判例を研究して下さい。表面上の理解ではベタ論点だから楽勝で書けると思っても,いざ文章を書き始めると書けないということになりかねません。

5 個別法を使い倒そう

関係法令の趣旨を記述したものが余り多くなかった。また,記述されている場合でも,記述量が乏しく,さらに,趣旨の記述を条文解釈に関連付けた答案はごく少数であった。問題文で示されている諸事実が,条文解釈を通じた主張として用いられていない答案も目立った。
(平成22年採点実感)

【資料1】及び【資料2】において,検討すべき法令が具体的に示されており,法令解釈の検討対象が明らかであるにもかかわらず,当該各法令につきその立法趣旨にさかのぼった骨太な立論が展開された答案は少なかった。総じて,一定の視点から事案を分析・整理した上で,法令の解釈・適用を行うという法実務家に求められる基本的素養が欠如していると言わざるを得ない答案が多かったのは,残念である。
(平成22年採点実感)

行政法に個別法の資料が大量に添付されているのは,それを使いこなして本件をどう処理しますか,ということを問うているからです。そのため個別法をどこまで丁寧に引用・解釈したかが点数に反映されることになります。
試験委員は出題可能性のある個別法を全て事前に勉強しておくことを要求しているわけではありません。初見の法律を読み解いて事案をあてはめていく力は今までの基本7法の学習と共通しています。ロースクールの演習や著名な演習書を用いて個別法を読み解く練習を積んでおくと,初見の法律が出題されても法律の仕組みや優先的に読むべき条項などが分かるようになります。そういう意味では個別法の読解も事前準備ができるのです。

6 引用条文を大切に。条文解釈は三段論法で。

条文の解釈,当てはめが欠けている答案について
・添付資料として関係法令が付されているのに,何号によって随意契約が許されるかという当てはめをせず,生の事実だけを書いている例もある程度あり,条文を重視する姿勢が欠けていると思われた。
・法的三段論法を習得していない答案が多い。
・関係法令の趣旨を記述したものが余り多くなかった。また,記述されている場合でも,記述量が乏しく,さらに,趣旨の記述を条文解釈に関連付けた答案はごく少数であった。問題文で示されている諸事実が,条文解釈を通じた主張として用いられていない答案も目立った。
(平成22年採点実感)

条文を条・項・号まで的確に挙げているか,すなわち法文を踏まえているか否かも,評価に当たって考慮した。
(平成21年採点実感)

接道義務違反,距離制限違反について多くの答案は言及していたが,法律条文の趣旨を踏まえて,その解釈を示し,具体的な事実関係を当てはめて結論を出すという,法的三段論法に沿った論述は少なかった。答案の中には,法律の条文のみを引用して,直ちに結論を示すものが見られ,法律解釈の基本が理解できていない。例えば,児童室が「児童公園,・・これらに類するもの」(B県建築安全条例第27条第4号)に該当するかについて,条文の趣旨解釈から説明しているものは少なく,条文を解釈するという姿勢に欠けている。本件児童室は児童が利用しやすい施設だから児童公園に類するなど,法文に続けて,単純に事実関係を論じるだけで,法令への当てはめの議論になっていない答案,当てはめが見られない答案が少なくない。
(平成21年採点実感)

資料で上がっている条文もヒントではなく,それを使って論述しなさいというポイントです。条文をたくさんあげるようにして下さい。そして,条文があげられるようになったら,条文をどういう順番で引用すれば論理的になるかを考えながら答案構成をして下さい。
本案の検討では個別法の文言解釈がよく出題されています。この時,「~という事実からすると○○条の「●●」に該当する」というようにラフに書いてはいけません。
個別法の解釈では,法の趣旨を読み取り規範を定立できる能力の有無をみようとしています。
したがって,法の仕組み解釈をして,○○条の趣旨を書き,その趣旨からすれば「●●」という文言は△△と解すると書き,本件では~~ですとあてはめをすべきです。 本案の主張の場合,この法の仕組み解釈や趣旨の解釈について誘導で指定がある場合が多いので点を逃さないようにしてください。

7 訴訟要件,個別法の解釈以外からも出題されるので注意

これまでも言われてきたところではあるが,総じて,訴訟法に関する設問1と比べ,主に行政実体法の解釈に関する設問2の評価が低い傾向にあった。結論部分のみを示している答案が相当数見られ,自分の頭で考えて答えを導く答案は,多くはなかった。行政実体法に接する学習が足りていないのか,議論の進め方が雑であるという印象が強い。
(平成21年採点実感)

過去問では,訴訟要件や仮の救済を設問1で聞き,設問2で条文解釈からのあてはめが主流でした。しかし,最近では行政規則の理解や裁量論,損失補償,立法論等広く行政法の知識が聞かれています。そうすると,近時の問題では広く知識を押さえておく必要があります。
もっとも,これらの問題は誘導にのれば得点できます。また,設問3で問われた場合,時間不足で書けない受験生が多いことから,少しでも書ければ相対的に上に位置することができる得点ポイントでもあるので,無駄にしないようにして下さい。

8 行政法総論も忘れずに

行政救済法と行政作用法(総論)とに分けた場合,後者の分野での理解になお不足が感じられる。
(平成20年採点実感)

行政法総論は抽象的な議論が多く,勉強を始めたころは「これはいったい何の役に立つのだろう」と感じてしまうかもしれません。総論部分は基本書を読んだだけでは論文で使えるような知識にはならないと思います。実際に判例を読んだり,演習書でどのような場合に総論部分の知識が問題になるのかを勉強しておく必要があるでしょう。

9 仮の救済の重要性

「仮の救済は,考慮しなくてよい。」と問題文に付記したにもかかわらず,仮の差止めができるかどうか等を選択の根拠に挙げている例もあった。
(平成23年採点実感)

仮の救済の重要性に一言触れておきます。問題文で明示的に検討不要とされている場合にはもちろん検討をする必要はありません。しかし,そうではない場合には答案に書くかは別にしても,常に仮の救済の可能性については頭で考えるようにしておきましょう。
取消訴訟や義務付け・差止訴訟はいずれも審理に時間がかかるため,判決が出たころには当事者救済の意味をなさないということがありえます。そこで,当事者としては執行停止や仮の義務付け・差止めをすることで,当面の救済を図りたいと考えるのが自然でしょう。
設問によっては仮の救済の検討を厚くする必要があるものもあるはずです。「仮」に過ぎないのだから検討は簡潔で良いとは思いこまずに,事案に応じて丁寧に論じてください。

10 配点比率を利用しろ

受験者が出題の趣旨を理解して実力を発揮できるように,本年も各設問の配点割合を明示することとした。
(平成24年出題の趣旨)

特定の設問に力を入れすぎて,時間不足になったと思われる答案や,各設問の分量バランスが悪い答案が見受けられた。設問1,同2(1)はよく書けているが,設問2(2),同3の順に記述の分量及び質が落ちていく傾向が見られた。
(平成23年採点実感)

採点実感でも嘆いているように,最初の方の設問を丁寧に書いているあまり,時間不足となって後半は乱雑な文章になってしまう受験生が多いのでしょう。そのような事態に陥らないように,配点比率を利用しましょう。
「出題の趣旨を理解して実力を発揮」してほしいということは,出題者は配点比率の高い部分を厚く書いてほしく,低いところは簡潔で良いとしているのです。こんな重要なヒントを利用しない手はありません。そこで答案構成段階で設問ごとに配点比率に合わせて書く分量を決めてしまいましょう。そうすることにより,設問の最初の方だけ頑張るというバランスの悪い答案を避けることが出来ます。


<ポイント整理>
①行政法の判断枠組みを間違えない
②添付資料の個別法を使い倒す
③誘導が設問になっている意識で,それに沿った解答を論じる
④訴訟要件,個別法の解釈以外も出題されるので準備しておこう