演者とお客様 | 神田松之丞ブログ

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毎月のスケジュールと、演目などを更新していきます。

また、自主興行のテーマなども書いていきます。

よく演者が「お客様の顔はよく見えるんですよ」という。あれは本当だ。

高座にあがって、演者はお客様の顔をよく見てる。

先月の四派で深夜の時、120人以上のお客様が末廣亭に。若い人が多かった。

そこで友人の顔をみた。やや後ろよりの真ん中の席に。気づいたのはインド人のマクラを喋っている時だ。

中学の時以来だから、15年ぶりか。

すべてのお客様の顔を瞬時に分かるわけではないし、たまたま認識しただけだが、特徴のある顔なのですぐに分かった。

中学生の時以来、多分会っていない。ふと入ったのだろうか。落語は詳しいのか。講談を知っているのか。私を神田松之丞と認識しているだろうか。マクラを喋りながら考えていた。

中学生の頃、彼の家の裏に良いスペースがあって、よくキャッチボールをした。

そこでとりとめもない事を話した。もっとも何を話したのかあまり覚えていない。

非常に仲は良かった。相手は、真面目で誰とでも打ち解ける人間でいながら、人と深く付き合うタイプの人間だった。

中学卒業の頃
「いや、このまま中学の仲間が楽しいから、同じ高校も大学も行きたいわぁ」

そう彼が言っていたのを思い出す。これだけは覚えている。私はそれに対してなんて言ったか覚えていない。
「あぁ、そうだね。」
と言った気もするし。

「そうはいうけど、中学の頃の思い出とか忘れるんじゃないかなぁ。」
と言った気もする。

とにもかくにも仲が良かった。だけど、彼が色々な事情で引越して何となく音沙汰がなくなった。環境によって友人関係も変わってしまう。

それで15年ぶり。ちょうど今が30歳だから、15年空白があるのか。

顔を見ると大人になっていた。そりゃそうか。この15年で色々あったろうし。

ふと思った。高座に座って着物を着ている私はどう見えているんだろう。

別にクラスでも特に明るくなかった私が、人前で話をしている姿は同一人物としてうつるのだろうか。そもそも重ねがさね認識しているのだろうか。

もっとも古舘克彦でより、神田松之丞という全くの他人で満足してくれる方が嬉しいような気もする。

顔を見ると、笑っているようで安心した。隣にいる同世代の美人さんは彼女なのか。へぇー、相変わらずモテるんだなぁ、色々考えた。

そう思いながら、インド人のマクラから「谷風情相撲」へ。

何となく、人前に出る商売って面白いなぁと思う。つくづく一期一会。