初めて講談を聞いて頂く手引 | 神田松之丞ブログ

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毎月のスケジュールと、演目などを更新していきます。

また、自主興行のテーマなども書いていきます。

それじゃあ、初めて講談を見る人はどこからみればいいのかという事になる。何事も入りが凄く大事だ。つまらないものから見ると第一印象の悪さにずっと引っ張られてしまう。

落語であるならば、真っ先にオススメするのは志の輔師匠の独演会であるとか、昇太師匠の独演会に行けば、何となく落語が持っている古臭い難しそうというイメージは壊れ
「うわぁー、面白い」の境地に辿り着く。

初めて見た人でも面白く、間口が広いという。

私は最初、昭和の名人(この括りでいいのかも分からないくらいの名人)の圓生師匠の「お神酒徳利」をラジオでたまたま聞いて、面白くて、のたうちまわった。高校2年の時だ。

ラジオっ子が落語好きになる典型的な例。その後、評判の良い志ん生師匠の落語ベスト集を購入。楽しみに聞いたらこれがつまらない。というか、何を言ってるか分からない。

何だよ、つまらないと思った。その後やっぱり圓生だなと。圓生師匠を死ぬほど聞き、その後CDで、分かりやすい先代の金馬師匠や、空前の志ん朝ブームが私にくる。

それで、多少落語経験値を積んでから再び志ん生師匠を聞くと、これがめちゃくちゃ面白いのである。ある日急に、志ん生師匠が面白くなるのである。この前と別の事喋ってるのかよと思うくらいだ。こういう経験は落語好きは誰しも辿ると思う。ある日、急に面白くなるという。

また、先代の文楽師匠も全然ピンとこなかった。しかし多少経験値を積むと、なんという落語だと感激する。私は結構手探りで落語を聞いていたので、正しい道筋が分からなかった。誰も教えてくれなかった。未知の落語を手探りで、高校2年で女のケツを追っかけていればいいものを、死んだ落語家ばかり追いかけてた。

今考えると、恐らくCDであるならば
志の輔師匠→志ん朝師匠→圓生師匠→談志師匠→志ん生師匠→先代文楽師匠→あと自由
みたいなのが、私が勝手に思う自分にとって良い流れだと思う。全然違うかもしれないけど、何か良い流れだと思う。

時々、先代馬の助師匠の権助ブームがきたり、留さん文治ブーム、先代柳好師匠の「牛ほめ」でのたうちまわったりもするけど、基本この道筋が良かった。

あと、落語も講談も生で聞くのが圧倒的に大事であることも忘れがちだ。私はラジオやCDから入りすぎた。

私が初めて落語を生で見て印象に残っているのは、浅草演芸ホールで柳昇師匠が昼席トリの時だった。

「わたしは、春風亭柳昇と申しまして、大きなことをいうようですが、春風亭柳昇といえば我が国では・・・私ひとりです」

みたいなのを聞いて、何てファニーな爺さんがいるのだと感激した。圓生原理主義だったので、芸協の魅力にふれたひとときだった。その頃は偏った知識で圓生百席の「札所の霊験」とか聞いてたのに、寄席では落語協会と落語芸術協会に別れているのも知らなかった。

知識が偏りすぎである。

恐らく百人の落語好きがいれば百通りの入り方があり、色々好きになる過程の違いが面白く愛おしいものだ。自分オリジナルの好きになり方がある。それでいい。

ただ正直、講談は手引なしではキツイ。これはもう絶対キツイ。相当な落語好きが、そろそろ違うジャンルに目を向けてみようかなという、落語のジャングルで鍛えた猛者達がようやく楽しめるジャンルである。講談だけ好きという人を私は知らない。

落語に辿り着くのも相当迷い込んだ感じもするが、講談はそのずっと先にある。もう凄い後ろの方にあるものなのだ。だから新規のお客様を満足させるのはもう大変だ。

また「講談を好きになるぞ」と決意しても、これが難しい。
そういう手引の本もない。そもそも、講談にどういうネタがあるのかと書いてある辞典的な本も現在は出版されてない。最近では、吉沢先生の「講談作品辞典」はあるが、自費出版であるしプロ用のやつだ。

また、CDやDVDも落語と比べ100分の1ではきかないくらい少ない。言いにくいが、良質なものも非常に少ない。

最近出たのでいうと「講談かぶら矢会」のCD集の中にある、琴柳先生の「甲越軍記」と「ボロ忠」が傑作であるので聞いて頂きたい。一生物の内容だと思う。

あとは、大体廃盤になっている。なので講談に興味がある人は、国立の視聴覚室に当代山陽の講談が何本か視聴出来ると思うので、そっから入って頂ければなぁと思う。特に「初めての講談と浪曲
」みたいな会での「青龍刀権次」が素晴らしかった。


そこで、肝心の生の講談会のオススメだ。正直「松之丞だけ見てればいい」と言いたいが、残念ながら今はその実力がない。いつかはそういうとして。

講談は、落語でいう志の輔師匠や昇太師匠的な感じの会がない。
あるかもしれないけど、弱いかなぁと思う(知らないだけかもしれないが、全く見当たらない。)

恐らくは、初めての人に最も向いているのは、琴調先生を見て下さいとしか言いようがない。

他にも素晴らしい先生方は沢山いるけれども、琴調先生が初めて講談をみるにあたってはベストな気がする。

それに最初から講談会に行かず、落語家と混じっている講談師を見ると魅力は伝わりやすいと思う。そういう意味で鈴本の琴調先生のトリ興行は、初めて講談を見る人に強烈にオススメしたい。

もう終わるけれども。