仁美は意識のない間夢を見ていたと言う。
桜の木の下で首を吊ろうと毎日通う怖い夢だったのだが、
ついに首を吊った時、桜の妖精が出てきて助けられる夢だそうだ。
「はやく桜の下で退院祝いしてぇなぁ!」
リハビリをしながらそんな事を言う仁美に
俺たちはまだ伝える事の出来ないことがあった。
仁美が意識を取り戻したと聞いた日、病院からの帰りに
洋子が桜の木に寄りたいと言い、丘の上公園へと向かった。
洋子の婚約祝いの日から行ってなかったので、久しぶりだった。
洋子もそうだという。
心配させるといけないので、
仁美が意識を取り戻したら教えてあげるつもりだったらしい。
しかし桜の木は見当たらなかった。
桜の木だけではない。
丘の上公園もなくなっていた。
小汚いブランコも、意味の分からないオブジェも雑草に囲まれた鉄棒も、
公園の周りを取り囲むように生えた木々もそこにはなかった。
あったのは入り口に「二丁目東公園」と書かれた公園だった。
何人かの子供達が、砂場やペンキの剥げたブランコで遊び、
その母親らしき人たちが近くのベンチで話しをしている普通の光景だった。
普通の光景だが、俺たちにとっては普通じゃない。
その異変に、公園の入り口で俺と洋子は動けなくなっていた。
二人の間を子供が駆け抜ける。
「ねえボク!」
俺はその子を呼びとめた。
小学校に入りたて位の年頃だろうか。
恐る恐る近づいてきてくれたその子の目線の位置までしゃがみ聞く。
「この公園はいつごろからある?」
「知らない」
「ずっと前からある?」
「うん」
「そっか。ありがとう」
踵を返し、俺から逃げるようにシーソーで待つ友達のもとへ走って行く。
「どうゆうこと?」
洋子が俺に聞いてくる。
「……そうゆうことだろ」