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 仁美は意識のない間夢を見ていたと言う。




桜の木の下で首を吊ろうと毎日通う怖い夢だったのだが、


ついに首を吊った時、桜の妖精が出てきて助けられる夢だそうだ。




「はやく桜の下で退院祝いしてぇなぁ!」




リハビリをしながらそんな事を言う仁美に


俺たちはまだ伝える事の出来ないことがあった。



 仁美が意識を取り戻したと聞いた日、病院からの帰りに


洋子が桜の木に寄りたいと言い、丘の上公園へと向かった。



洋子の婚約祝いの日から行ってなかったので、久しぶりだった。



洋子もそうだという。


心配させるといけないので、


仁美が意識を取り戻したら教えてあげるつもりだったらしい。




しかし桜の木は見当たらなかった。




桜の木だけではない。


丘の上公園もなくなっていた。



小汚いブランコも、意味の分からないオブジェも雑草に囲まれた鉄棒も、


公園の周りを取り囲むように生えた木々もそこにはなかった。




 あったのは入り口に「二丁目東公園」と書かれた公園だった。




何人かの子供達が、砂場やペンキの剥げたブランコで遊び、


その母親らしき人たちが近くのベンチで話しをしている普通の光景だった。




 普通の光景だが、俺たちにとっては普通じゃない。



その異変に、公園の入り口で俺と洋子は動けなくなっていた。


二人の間を子供が駆け抜ける。




「ねえボク!」



俺はその子を呼びとめた。


小学校に入りたて位の年頃だろうか。



恐る恐る近づいてきてくれたその子の目線の位置までしゃがみ聞く。




「この公園はいつごろからある?」



「知らない」



「ずっと前からある?」



「うん」



「そっか。ありがとう」




踵を返し、俺から逃げるようにシーソーで待つ友達のもとへ走って行く。




「どうゆうこと?」



洋子が俺に聞いてくる。



「……そうゆうことだろ」






仁美が意識を取り戻したのは、事故があってから一ヶ月以上経ってからだった。





 意識が戻った事を知らされてから、


一週間後には一般の病室に移されてお見舞いが出来るようになった。



ようやく仁美と面会した洋子は泣きながら俯く。




「ごめんねぇごめんねぇ……」




そんな洋子の頭を仁美は体の中で唯一無傷だった左手で撫でて言う。




「洋子が無事でよかった」




その様子を見て、俺も仁美が無事でよかったと心から思った。



もちろん当人の体は無事じゃなかったらしい。




 仁美が主治医から聞いた話では、


タイヤに踏まれた左足の粉砕骨折。 右足、右腕の骨折。



トラックとの接触時に折れた肋骨が肺に刺さり、危険な状態だったとの事だ。




「脂肪に護られたのかもねーだとよ。ケッ!」




仁美が主治医にそう言われたといって、毒づいてはいたが俺もそんな気がした。



 久しぶりに見た仁美は信じられないほど痩せていた。




痩せたと言っても、もともと信じられないほど太っていたので


普通の体格に近づいたとでも言うべきか。




俺たちとは遅れて病院に訪れた陽太が仁美本人だと確信できずに



「仁美さんですか?」



と恐る恐る聞いて笑われていた。




毎日お見舞いにやってくる洋子が、


仁美にお菓子をせがまれても頑として持ってこなかったのは、


きっと女としての優しさだったのだろう。








 『康広』


 仁美の交通事故から、半年経っていた。




暑かった季節は寒くなり、洋子は都会から実家に帰って来ていた。



陽太は最近会社が忙しいらしい。



俺は親戚の工場で溶接工の仕事をやりはじめていた。






 事故のあった日、



仁美は病院に運ばれてすぐに集中治療室に入ってしまったので、


病院に遅れて到着した俺はどういう状態だったのか分からなかった。



詳しい話は守秘義務のためなのか、看護士や医者に聞いても教えてはくれなかった。



仁美のお母さんも、疲れた表情で


「大丈夫だから心配しないで」


というだけだった。



陽太も事故に巻き込まれたのか、顔には紫色の痣ができており、


膝や肘は擦り傷だらけだった。



事故の悲惨さを想像させる。



仁美はトラックから身を挺して洋子を助けたらしい。



洋子が泣きながら教えてくれた。




 集中治療室に入ったままで、家族しか中に入ることが出来ないにも関らず、



洋子は毎日病院へと通っていた。



俺や陽太も時間がある時に行っていたが、


いつも洋子が首を横に振って迎えた。