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小説を書いています。


 本当であれば、あの事故で洋子が死んでしまうはずだった事。



洋子が死んだ未来から来た俺と洋子の婚約者が、


陽太に事故の場所、事故を起こす車を教えた事。



すぐに現場に向かったが、間に合わずに仁美の名前を呼ぶので精一杯だった事。



そして未来の俺と洋子の婚約者を呼んだのはあの桜の木だという事。



 その話の中で陽太は洋子の婚約者の名前が村山だという事を当て、



頬に少し残っている痣は村山がつけたものだから、


この痣に指が一致するはずだと証拠を主張した。



 桜の木は俺たちには計り知れない力を持っていた。




もともとここにあったのはこの公園であり、


桜の木が俺たちだけに自分の居る場所へ行けるようにしてくれていた。



しかし、陽太に洋子の危険を知らせるために力を使ってしまった為に


自分の場所と、俺たちを繋げなくなってしまった。



だから、丘の上公園と桜の木は無くなったのではなく、


きっとどこかにあるのだ。


俺たちがあいつの事を忘れないでいれば、


きっとまたあいつの方から逢いに来てくれるはずだ。



という自分の仮説を、話しの最後に付け加えるように言った。




 俺は信じようと思った。




そして陽太の言うとおり桜の木にはいつか再び逢えるのだと信じる。



洋子も話の途中からハンカチで目頭を押さえながら聞いていたので


信じていることだろう。



 桜の木と俺たちは確かに繋がっていたのだ。



それは、単に物理的な事だけではない。




俺たちがあいつを大事だと想うように、


あいつも俺たちの事を大事に想っていてくれていたのだ。





 もう逢えないはずがない。 俺たち四人の中にはあいつがいる。



いつだって繋がっているのだから。





 今日、ようやく仁美が退院する。


俺も陽太もこの日は仕事を休めるようにしていた。




これから四人であの公園へ向かうつもりだ。



 またあいつに逢えることを信じて。




洋子の問いに言葉を探していると、


公園の入り口から陽太が入ってくるのを見た。




陽太は特に驚いた様子も見せず、俺たちの元へ向かってくる。




「病院行ったら、まだ仁美には会えないって追い返されてよ。


そんでついさっき二人とも帰ったって聞いたから、もしかしてーっと思ってさ。


でも意識戻ってよかったよなぁ!」




歩きながら俺たちへと言葉を投げてきた。




「いつから知ってたんだお前」



陽太に聞く。


陽太は何か考えるような表情の後、小さい溜息をしてから静かに答えた。




「……仁美が事故にあった日の夜」



「なんで言わなかった?」



「見た方が早いだろ……それに……」




口ごもる陽太をせかすように聞く。



「それになんだよ」



「オレは、どうしてあいつが消えちまったのかわかるような気がして……」



「なんでだよ」



「いろいろあったんだよ」



「いろいろってなんだよ」




「ねえ陽太」



洋子が陽太の手を取って言う。



「教えて? 知りたいの」



陽太はそのまま何か考えこむように黙っていたが、


急に洋子の手を振りほどいて言った。




「今からオレが言う事を信じなくてもいい。


だけどオレは今からいう話を全て真剣に話す。


もちろん嘘なんか言わない。だから、真剣に聞いてくれるか?」




陽太が真剣なときとそうでないときは、すぐにわかる。


俺は頷く。 もとより疑う気なんかない。




「ああ。話してくれ」



「うん。疑う気なんか最初からないよ陽太」




それを聞いた陽太が少し微笑んで言う。



「分かった。」




少し間を開けてから陽太が話し始めた内容は、確かに信じがたいものであった。





俺は立ち上がり、公園の中に入って行った



そういえばいままで丘の上公園に俺たち以外の人を見たことがないことに気付いた。



母親達が座っているベンチは鮮やかな色に塗られたモノだった。



同じベンチが隣にもう一つあった。


洋子がそこに座る。




 俺は桜の木へ行く為の抜け道を探しに公園の奥へと向かったが、


抜け道がないのはすぐにわかった。



フェンスで囲まれたその公園の向こうにあったのは民家の壁だった。



フェンスの前には、見慣れた木製のベンチがあった。


ひっそりと、誰かが座るのを待っているかのように。



俺はそのベンチに座る。




 しばらくすると、洋子が隣に来て座った。




「このベンチだけここにあった」



俺が言うと、洋子は静かに頷いた。



しばらくの間、俺は黙って公園の様子を眺めていた。




夕方になろうとしている為、


さっきより遊んでいる子供達や、母親が少なくなっていた。



やがて洋子が呟くように口を開く。


「なんだったんだろう」



「え?」



「あの桜。なんだったんだろう」



「さぁねぇ」



「夢なんかじゃなかったよね?」



「うん」



「もう逢えないのかなぁ?」



「……」