職場の玄関に蝉が止まっていた
ドアを開け閉めするたびに、暑苦しい鳴き声がする

騒々しいなぁ、と思った瞬間

遠い遠い昔の記憶がよみがえってきて
その場で立ちすくんでしまった

痛いほどの夏の陽射し
サラウンドで聞こえる蝉の声

…ああ、いつかの夏だ

そこにふたりでいることが、暑くて気だるいことよりも勝っていた

なにをしていても幸せでしかなかった、あの夏の記憶だ

全ての五感が
あの夏の記憶を呼び覚ます


人間って
しんどい生き物だな