#90 水島新司『ドカベン』 | 漂流バカボン

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何か適当なテーマを自分で決めて自分で勝手に述べていこうという、そんなブログです。それだけです。

このブログを書いている8月14日、甲子園球場では夏の全国大会が繰り広げられています。

 

特に、今年は「高校野球100年」との事で、マスコミの報道やテレビの特集なども例年に比べ多いような気がします。

 

自分にとって、高校野球といってまず思うのが、水島新司の漫画『ドカベン』です。

 


主人公の山田太郎が、チームメートの岩鬼、殿馬、里中達と、神奈川県の伝説の不敗「明訓高校野球部」で戦って行くこの漫画。自分が最初に読んだ長編ストーリー漫画であり、また今に至る野球への興味を最初に持たせてくれた漫画であります。

 

ストーリーは、山田太郎が中学に転校してくる頃から始まります。この漫画、最初のコミックス7巻くらいまでは、野球漫画ではなく、柔道がテーマになっています。ただ、この「山田太郎中学柔道部編」、無駄かというと、そんなことはありません。

 

山田太郎が何故野球を封印し柔道を始めたかのエピソードや、この頃に対戦した柔道のライバル達が、後になって野球のライバルとして再登場(賀間、影丸、木下など)してくる展開など、この部分も重要な役割を担っています。

 

しかし、やはりこの漫画の真骨頂は、山田太郎が明訓高校に入学し、1年生の夏から神奈川県予選・甲子園大会と、驚異の快進撃を見せるところでしょう。

 

この漫画の魅力の一つに、サブキャラクターがとても素晴らしい事が挙げられます。特に、岩鬼正美など、こちらが主人公でもおかしくないほど(現に、この漫画の始まり一コマ目は、岩鬼がまず登場します)で、自分としては、日本漫画史上でも最高のキャラクターと思っています。

 

その他にも、「天才」殿馬や「小さな巨人」里中、少し遅れてチームメートとなる微笑や、主将であり後に監督となる土井垣なども素晴らしいキャラですし、山岡、北、石毛などの先輩達も地味ですけど、皆優しいんですよね。

よく運動部は先輩後輩関係が厳しいといわれますが、この漫画の明訓高校野球部に関しては、すごく雰囲気が良く、羨ましいなと思います。

 

そしてまた、次々現れるライバルチームの実力者たち。神奈川県では白新高校の不知火、東海高校の雲竜、横浜学院の土門。そして、甲子園では何といっても高知土佐丸高校の犬飼小次郎・武蔵兄弟。犬飼兄弟に関しては、続編『大甲子園』にはその弟犬飼知三郎もライバルとなり、それぞれタイプの違う「犬飼三兄弟」が、山田太郎、そして明訓高校の前に立ちはだかります。

 

その他にも、通天閣高校の坂田三吉、明訓高校に初の敗戦をもたらす弁慶高校の義経と武蔵坊、当初は明訓高校の監督を務めながら、後にライバル校の監督となり打倒山田を目指す徳川監督。

 

何だかキャラを列挙するだけで楽しくなってきます。

 

そして。もう一つ、この漫画の面白さに、試合展開があります。水島新司の描く野球の試合には賛否両論があり、まあ現実ではありえない展開や御都合主義的な展開も、もちろんあります。

 

でも、それをいえば巨人の星の大リーグボールだって、侍ジャイアンツの番場蛮だって、いうなれば非現実的です。

 

自分は、野球漫画として、水島新司の描く試合は、とても面白く読むことができます。(ただ、後年の「プロ野球編」以降は、ちょっと・・・と思う個所が増えてきますが)

 

自分が特に好きな試合が、山田が1年の春のセンバツ決勝戦、土佐丸高校との一戦です。この試合は、土佐丸高校らしい謎のキャラ、隻眼の投手犬神を相手に迎え撃ち、延長戦にもつれ込みます。

 

この試合、犬神の腕が伸びたり、ボールがホームベース上に突然何個も出現したり、やはり水島新司らしい驚きの展開で試合が進みますが、この試合が独特なのは、岩鬼や殿馬の過去のエピソードが試合に並行して描かれながら進んでいくことです。

 

そして劇的な幕切れと、まさに殿馬の秘打のごとく「別れ」の予感を持って試合が終わるのです。

(ちなみに今日のブログの写真には、この試合が掲載されている、コミック31巻を挙げさせてもらいました。)

 

まだまだドカベンについては話は尽きませんが、この漫画の特徴、あと少し。

 

まずは、長編漫画にはありがちなことかもしれませんが、この『ドカベン』、伏線が結構ばらまかれるのですが、案外それが回収されていない。そのため、「えっ、あの話どうだったの?」という事が結構あります。

例えば山田太郎の中学野球の監督の素性とか、横浜学院に少しだけ登場した投手「鰺坂」など。

また、中学時代のライバル東郷学園小林とも結局戦わずじまい。(戦うはずだった試合を雨天中止にさせるという驚き!の展開)

また、後に『大甲子園』につなげるため急いでいたのかもしれませんが、2年の春のセンバツ大会から漫画が完結するまでの展開がなんか雑っぽい気がします。

 

そのあたりを考えると、決して完成された作品ではないかもしれません。それでも、自分のストーリー漫画体験の原点といえるこの作品は忘れられませんし、36年前から少しずつ購入を始めたコミックス全巻、もはや表紙など読み込みすぎてボロボロですが、今も保有しています。

 

最後に。この漫画の特に初期に書かれている昭和40年代の街並み、特に山田太郎が畳屋のじっちゃんとサチ子と住んでいた家や風景の描写は、一種資料的な価値もあると思います。