【書評】『あの家に暮らす四人の女』 | 小さな世界に寄り添って

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社会福祉士・介護福祉士
訪問介護に従事する介護士です。
介護関連のことや、自分の好きな読書や趣味的なことをとりとめなく記事にしています。


昨日は、東京都内でも初雪が観測されたようですね。寒かったはずだ…

訪問介護は外回りの仕事と言えるでしょう。
そんな仕事をする人間にとって、天敵と言えるものが冬にはあります。

積雪。

移動手段が奪われるし、そもそも電車が止まって仕事に行けなくなってしまうので、積雪予報が出ると、前日から戦々恐々です。

最近は、東京でも毎年雪が積もる日がありますからねぇ。

雪が降ると、利用者さんと相談の上、訪問はお休みさせてもらうことが多いです。しかし、必要性の高い訪問は、何とかして行きます。
普段よりも訪問数はかなり少なくなるのですが、それでも、移動の困難さや雪の冷たさで、終わった後はクタクタになってしまいます。

雪が降り積もると、なんとなく華やぐような幻想的な光景が広がりますが、同時に地獄を見ることにもなるので、毎年複雑です。




では、本題。


本日は小説の書評です。


『あの家に暮らす四人の女』
三浦しをん・中公文庫





三浦しをんさんの代表作と言えば、直木賞を受賞した『まほろ駅前多田便利軒』。
続編も出版され、映画・ドラマ・漫画と多方面にメディア展開もされている人気作品ですね。

『まほろ駅前多田便利軒』は、便利屋を営む男性二人と関わる人達との間に起きる様々な出来事を描いた物語。
どこかおかしなクセのある人物しか出てこず、淡々と出来事が起きては解決されていき、そのテンポと世界観になぜだか引き込まれていく。不思議な空気を持つ作品です。

対して、今回書評にあげた『あの家に暮らす四人の女』は、木漏れ日のような柔らかな空気感が印象が残る、四人の女性の穏やかでありきたりな日常が丁寧に描かれていく物語。
谷崎潤一郎さんの『細雪』が題材となっている作品だそうです。

根底にある、毒気があり、クスッと笑える独特の文章リズムは同じなのに、『あの家〜』は題材があるとはいえ、こんなに描き出す空気感を変えることができるものなのかと、三浦しをんさんの物書きとしての実力の高さを、この2冊から感じます。


まずびっくりするのが、目次です。


・あの家に住む四人の女

・解説


目次はこの二行のみ。


章立てすらないの??

という気持ちと共に読み始めたのですが、読み始めてしばらくすると気付くのです。

もしかして、このゆるーい日常描写が最後まで続くから章立てしてないのか…?

その通りでした。
物語の緩急はしっかりあるものの、本当に最後までゆるーい空気が漂い続け、四人の女性達の日常が描かれていきました。

しかしその、ゆるく漂い続ける空気感が非常に心地よく、女性達の日常を近くで見守っているような不思議な没入感を感じました。

ゆるゆると何事もなく過ぎていく日常。どこか羨ましく感じてしまう、とても贅沢な情感のある平和な日常。小説らしく事件的なことは起こるのですが、感じる空気は終始穏やかそのもの。
そして最後には、とても温かく前向きな、空を見上げたくなるような一文と共に、物語は終わります。

荒んだ心、緊張した心を解きほぐしてくれる、もっと力を抜いて生きようと思わせてくれる、優しい癒しが詰まった素敵な作品です。


余談ですが、この本は、ある人から教えてもらい知りました。
その人は、「三浦しをん」さんのことを、「宇都宮しをん」さんと教えてくださいました。

その場で早速、検索してみたのですが、

おいおい、ちょっと待て…この人たぶん作家じゃないだろ…

という衝撃の検索結果が表示されました。ちなみに教えてくれた人は、若く綺麗な女性です。余計に衝撃です。
おかげで、非常に印象に残る本と著者となりました。

しかし、ここまで言っといてなんですが、

宇都宮検索、ダメ絶対。