芸能王国渡辺プロの真実。

━ 渡辺晋との軌跡 ━

元渡辺プロダクション取締役・松下治夫

発行日: 2007年 7月12日。

 

 

 

続き、

 

p138,139 当時の社員は社長夫妻のほかに経理の女の子がひとりいて、ぼくを含めてマネージャーが三人ほどいた。

 

こっそり『ピータース』で昼食を食べたときのことを、ぼくははっきり覚えている。カレーライスを注文して食べているところに美佐さんがやってきて、ぼくの姿を見つけるとこういった。

「松下さん、ここで食事をするのはまだ早いわよ」と怒られたことがある。

 

社長が接客と打ち合わせに使っていた『ピータース』というレストランで、カレーを食べただけで渡辺美佐副社長に怒られたという話であるが、副社長についての記述は少ない。不自然といえばそれが一番不自然である。この昔のエピソード一つで、二人の関係を全て表しているようである。

 

p184~187 渡辺プロダクションの場合、なんといってもメインは制作部で、制作部に属するマネージャーはある意味エリートとして遇した。だから大学出を一様に採用するわけだが、いちおう試験や面接はするけれど、それで当人の適正まで選びきれるわけではない。

 

いろんな人を採用して思ったのは、面接の最終的なレベルというのはそんなに重要視しなくていいということだ。ある程度人並みのレベルがあれば、あとは入社してからいかに一人前にするかという手腕にかかってくる。

 

それはそうだろう。

 

p198,199 女性タレントを扱っていて、かならずといっていいほど直面するのは、やはり恋愛問題だ。

 

ぼくなんかは単刀直入に、恋愛をやめろ、という。だけど、それでやめたタレントはひとりもいない。そんなものだ。

 

でも内心では、そういうものだと割り切っている。それは人間だから恋愛もしたくなる。当たり前の話。人間だから、こちらの意思とは関係なく、どんどん変わっていく。

 

去年はこうだったけど、今年の私は違うの。そういうことを平気で言う。(中略)キャンディーズの場合もそうだった。それまで芸能活動が楽しくて一生懸命やっていたのに、いきなり普通の女の子にもどりたくなってしまう。

 

キャンディーズは、天地真理さんの結末を見て、恐れをなして普通の女の子に戻る気になったのかどうか知らないが、賢明な判断である。しかしまた戻ってきてしまうのですね。みんなそうである。中には、いい人を見つけて良い奥さんに収まっている人もいるが、いっしょになった男次第か。

 

p200 タレントのトラブルでいちばん多いのは、やはり金銭トラブルだ。売れはじめるとタレントはたいていギャランティのことで文句を言ってくる。それに対応するのもぼくの仕事だった。

 

p203 あっちのプダクションは三千万払うと言ってるから、少なくても三千万くれなきゃ移籍しちゃうよ、と強気で交渉してくる。

 

タレントの給料アップのペースがどんどん早くなってしまって、プロダクションの利益率がすこぶる低くなってしまう。そうすると新人タレントもそんなに多く抱えていられなくて契約を解除したり(中略)プロモーションなど投資にもじゅうぶんなお金をまわせなくなったりする。

 

悪循環である。ある時から渡辺プロから大スターが生まれなくなってしまった。図体が大きくなりすぎても維持するのが大変で、滅びてしまうのである。

 

p209 藤木くんはその後芸能界には復帰したけれど、なかなか仕事がなかった。巷では、渡辺プロダクションの力で藤木くんを芸能界から締め出した、というのが定評になったけれど、じつのところ、渡辺プロダクションの力だけでは彼をシャットアウトすることなど到底できない。いくら大きなプロダクションだからといっても、そこまでの権限はない。ひとりでも反対の意見があったら、締め出しなんて実際できない。

 

タレントの移籍に際して、実際は各方面に大した圧力をかけていなかったのだろうし、そんな力もなかったのだが、巷でそんな話が定評になっていたおかげで、それが独立の抑止力になっていたし、使う方も遠慮するようになっていったということか。

まあしかし、森進一、沢田研二クラスでも多少の影響はあったようなので、なにがしかのケジメは必要なようである。

 

p205,206 恋愛というものは詰まるところ本人同士の問題なので、どうしても結婚すると言い張られると、ぼくでも社長でも反対できない。いくら売れっ子のアイドルであっても、結婚するならしかたないと諦める。

 

プロダクションとしても大事なタレントだから、恋愛問題が浮上すると、いろいろと手をまわして事実関係を調べる。それで、だまされていることがわかると(中略)そうした場合、必ずと言っていいほど、男のほうが女をだましている。

 

本人を説得してもダメな場合はしかたがないから、ぼくは相手の男を呼びつける。その男がどこのプロダクションの所属タレントであろうが、そんなことは関係ない。直接呼びつけるのだ。

 

まだまだ引用したい箇所はたくさんあるが、長くなったので今回は終わり。