U2の「With or Without You」の歌詞の日本語訳について。

 この超有名な曲、タイトルの英語は中学校で習う簡単な英語ですが実際の歌詞の内容について説明できる人はほぼいないのではないでしょうか。

 CDに入っている歌詞カードの翻訳でも、洋楽と英語に詳しい人が個人的に書いているネットの説明でも筋の通った解釈が存在せず「宗教的な意味がある」とか「ボノの心の不条理」としてボンヤリ解釈されてきたこの歌…でも私、昔ボノ自身がこの曲について明確なストーリーを語ったのを聴いた記憶があるのです!(確かU2のライブのDVDの中でだったと思うのですが誰かに貸してしまったのか、何故かそのDVDが見つからず・・・もしかしたらこの話自体が夢かもしれない!なので話半分オッサンの妄想という可能性込みで読んでいただければと思います。)

 

 まずボノがDVDの中で語っていたのは「この歌はU2でデビューする前に組んでいたバンドの才能あるギタリスト、友人でもある彼との訣別を歌った歌である」ということです。

 なので宗教とか恋愛の歌では無いのです。

 ボノは当時プロのミュージシャンになる夢を持ちバンドに命を賭けていた、しかし友であるギタリストはプロにはなれないと悩み諦めようとしていた。

 

 冒頭(第一段落)

 

 See the stone set in your eyes

 

 友は彼自身のギターの才能もボノの歌の才能も信用できなくなっていた。

 透明で公平な目があればボノとギタリストの才能は明らかなのに。

 それが見えない状況を「目が石になってしまっていることに気付けよ友よ!」と表現したわけです。

 

 そして翻訳者を混乱させる原因となるのが第二段落の部分。

 

 On a bed of nails she makes me wait

 

 ほとんどの翻訳でこの「she」と第一段落の「you」を混同しているのですが、おそらくよっぽど文章を書くことが苦手な人でもないかぎり「おまえ」という人称表現を突然「彼女」と変えることはありません。

 つまりボノの知性を考えれば最初の「You」と第二段落の「She」が同一人物である可能性はゼロです。

 この歌がバンドの行き詰まりを歌った歌だと知っていれば「she」が恋愛対象ではなく「勝利の女神=バンドの成功」であることがわかります。

 世界で成功できるポテンシャルはあった。

 なのに勝利の女神は彼を苦行の中で待たせ続けるわけです。

 (イギリスの方では神を「彼」、女神を「彼女」、不遇の下積み時代を「釘ベッド」と表現する慣用句?でもあるのかな…知らんけど…)

 

 ギタリストに見捨てられ一人ぼっちになったボノはそれでも勝利の女神を待ち続ける。

 

 with or without you

 

 この「You」は当然最初の「You」と同一人物の友=ギタリストです。

 ボノは友が居るとか居ないとかに関わらずたった一人でも全力で曲を作り続ける。

 そして勝利の女神に認められる瞬間を待つわけです。(ゴッホのように死ぬまで)

 

 I can't live with or without you

 

 ここはもう死を覚悟している当時のリアルな状況ですね。

 才能が無ければ野垂れ死ぬだろうし、仮に才能があっても勝利の女神に無視されることは当然あって、それは友が居るから大丈夫とか居ないからダメとかそういう問題ではないという人生の真理だと思います。

 

 And you give yourself away

 

 ここは「そしてオマエは人生を音楽ではない他の何か(誰か)に捧げる!」という友への訣別のメッセージ。

 若しくは「自分自身を捨てる覚悟以外に勝利の手段はないのだぞ!」という友&リスナーへのアドバイス。

 若しくは女神から友や自分を含む全ての夢追い人へのアドバイス。(友や恋人の人称表現が突然「you」から「she」に変化することはありませんが「you」の指す内容が友から別の誰かに変わることはありえます。)

 

 She got me with nothing to win and nothing left to lose

 

 そして自分自身(我)を捨て、勝利も敗北も、何の執着もない状況になって初めて勝利の女神が自分を抱きしめてくれたワケです。

 

 …どうでしょう恋愛とか宗教で解釈するよりは当時のボノの音楽への思いがダイレクトに伝わるんじゃないでしょうか。

 「もし自分自身の人生に勝利したいなら万策を施した後、自分自身を一旦放棄して待つ時間が必要である」という貴重なメッセージ。

 もしボノの中に少しでもこの曲を恋愛ソングとしても聞いて欲しい気持ちがあったとしたら(その方が確実に売れますから)

 On a bed of nails ”she” makes me wait の部分を

 On a bed of nails "you" make me wait  と言う風に表現したのではないでしょうか。

 「you」であれば(本来の「勝利の女神」と言う意味は自分だけの胸にしまいつつ)失恋ソングとして何の問題もなく筋が通る。

 それをせずにわざわざ「she」を登場させたのは、タイトルの「you」は恋人じゃないぞ!恋人「you」の後に突然別の女性「she」が登場したら変でしょう?失恋ソングだと勘違いしないでよ!という強いメッセージなのだと私は思うのです。

 だって失恋ソングは世の中に十分すぎるほど秀逸なのが溢れていますが(コッチはコッチで大事な存在ですが)夢がかなわず死ぬ寸前の人達への本気のアドバイスって少ないですもんね。

 多分英語圏の人達はボノのインタビュー記事や映像を沢山目にしているので当たり前のようにこの歌をこの視点で解釈して聴いているのだと思います。

 そしてそれがとても幸福なことだと思うので日本でも幸福なU2ファンが増えるよう願いを込めてこの文を書いてみました。

 (でもボノの話が夢だったらごめんなさい。)