〈過去最高49億円超を不正受給〉有名もんじゃ焼き店運営会社がコロナ対策の雇調金を虚偽申請「社長は当時うつろな表情だった」と近隣住民「49憶円の使い道」を会社に聞くと…

2024/04/04 16:59(集英社オンライン)


「東京文化を世界へ」のスローガンで急成長を遂げた「もんじゃ焼き」店などを運営する外食産業グループ「加納コーポレーション」(東京都中央区、加納史敏代表取締役)が、新型コロナウイルス対策の国の雇用調整助成金(雇調金)を不正受給していたことが発覚した。その額なんと約50億円。すでに全額を返還したというが、下町の味をウリにしていた企業イメージは泥にまみれた。

「ぐわぁはははっ、て感じで笑う朗らかな方です」

厚生労働省東京労働局が3月29日に発表した内容によると、同社は2020年4月から2022年9月の間、一部の従業員に店が休業したことに伴う休業手当を支払ったと虚偽申請し、総額49億6797万4000円を不正受給した。同局が取り扱った1社当たりの不正受給額としては過去最高だという。

雇調金は、経済上の理由で事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図るための休業、教育訓練、出向に要した費用を助成する制度。

通常の場合に加え、特例支給が実施されるケースもあり、特に新型コロナ対策の雇調金は虚偽申請が頻発。厚労省もホームページで「不正受給は『刑法第246条の詐欺罪』等に問われる可能性があります」と注意喚起を促している。

「もへじ」「くうや」「おこげ」などのもんじゃ焼き店などを、都内を中心に約30店舗展開する同社の設立は、2015年と比較的新しい。しかし母体は1871(明治四)年に東京・日本橋魚市場で創業した水産仲卸の老舗「尾粂商店」で、加納社長はその五代目としてメディアにも度々登場してきた、ちょっとした有名人だ。

「社長は写真で見た通りというか、『ぐわぁはははっ』て感じで笑う朗らかな方です。コロナ当時のことは、私は在籍していなかったので、わかりませんね」(店舗アルバイト)

千代田区内の一軒家に住んでいたが…

今回の不正受給真っ只中の2022年9月18日の静岡新聞朝刊には、「日本の『だし』NYで 老舗水産仲卸 米国初の専門店」の見出しとともに、以下の記事が掲載されていた。

〈米ニューヨークで16日、日本料理に欠かせない「だし」を専門的に取り扱う店が開業した。日本産の天然魚介類などの乾物を用い、客の好みに応じ、だしパックを製造・販売する。和食が世界的な広がりを見せる中、だし文化の浸透を図るのが狙いで、こうした専門店は米国では初めてという。(略)今回が初の海外進出となった尾粂商店の5代目・加納史敏氏は「われわれの商品は日本産の素材で無添加であることが強み」と説明した〉

また、それに先立つ2021年11月4日の日刊スポーツには「世界初もんじゃ自販機」という見出しが踊った。以下に記事の抜粋をあげる。

〈世にも珍しいもんじゃの自販機は7月初旬、中央区月島3丁目のもんじゃ焼き店「月島もんじゃ おこげ 月島本店」を経営する加納コーポレーション(中央区)が、同店舗前に設置した。近所の住人を中心に「あれは何だ?」と話題になり、7月23日から「明太子もち」「五目」「いか墨」「豚キムチ」「海鮮カレー」の5種で販売をスタートした。(略)月島育ちの加納史敏社長は「東京名物と呼べるのはもんじゃぐらいなので、本当においしいもんじゃを提供したい」と語った〉

いずれの記事も今回のコロナ特例雇調金の虚偽申請をしていた時期と重なる。経営に行き詰まり、メディア発信に活路を見出そうとしていたのかもしれない。加納社長が2017年から昨年まで住んでいた千代田区内の一軒家の近隣に住む男性がこう語った。

「ああ、加納さんね。もう何年か前に引っ越しされてますよね。30代くらいのかわいらしいタイプの奥さんとお子さんが2人いましたね。加納さんも家の前で息子さんとサッカーをしたりして遊んでましたよ。本当は危ないからこの辺はサッカーしたらダメとは言われてたんだけどね(笑)。

挨拶をする程度の関係だったので、最初は何の仕事をしているとか話したことはなかったのですが、ふだんからラフな雰囲気の服装で、何か飲み屋でもやっているのかなと思っていました。そしたら屋上にお店ののれんを干していたことがあったんです」

この近隣住民の男性は、見覚えのあるもんじゃ焼き店のロゴを見て、インターネットで検索したところ、加納社長がホームページで大写しで紹介されていて驚いたという。

「ネットを見たら手広く商売されていてすごいなと思っていたんです。加納さんの家は賃貸だったと思いますが、月に100万円ほどの賃料でしたし、車もアルファードだったと思うけど、高級SUVに乗っていてお金に困っている様子にはまったく見えなかったですね。

コロナ時代はステイホームでしたから、その時期は加納さんが3度ほど外で車を洗っているのを見かけました。唯一言葉を交わしたのは、コロナの終盤のころ、ウチに間違って届けられた荷物を持って行ったときだけですね」

会社に問い合わせると

加納社長はボサボサ頭で股引きに肌着姿で、覇気のない声で「ああ、どうも」と荷物を受け取ったという。

「今思えば、そのときの様子がうつろな表情というか、何かやばい感じはありました。コロナの不正受給をしていた時期だったんですかね。

もう返納したとニュースで見ましたが、ということはコロナで客足が落ちて危機感に煽られてとりあえず受給してプールしてたんでしょうか。いずれにせよ返納できたならよかったです。引っ越してきたときも、引っ越されて出て行くときも、奥さんや子供さんとで挨拶に来られましたよ」

登記簿謄本によれば加納社長一家は昨年4月に港区内の集合住宅に転居しているが、ここでは同じ階の住人ともまったく付き合いがなく、1週間ほど前に引越し業者が来て、またどこかに転居していったという。

不正受給の経緯をあらためて加納コーポレーション広報に問い合わせると、以下の回答があった。

「東京労働局による当社の公表内容としては、『一部の従業員について、事業主都合の休業ではなく単に勤務予定がないに過ぎない日を休業としたもの』との記載がございましたが、当社は、事業主都合の休業であると考えて、雇用調整助成金の受給を進めてまいりました。

もっとも、このような判断が出たことについては真摯に受け止めており、従って雇用調整助成金約49億円全額に加え、違約金及び延滞金についても返還しております。(助成金の使い道は)従業員に対する給与や休業手当等、雇用・経営維持のための支払いをしておりました。同様の事態が二度と起こらないよう、社内の管理体制及びガバナンスの強化に努めてまいります」

老舗の五代目は、雇調金不正受給がもたらす“後遺症”に、今後も苦しみそうだ。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班