「とんねるず」武道館ライブ決定に歓喜の声 “芸人の余技”をはるかに超えていた歌手活動を振り返る

デイリー新潮 2024/04/22 10:55


2024年11月8・9日に「とんねるず THE LIVE」が東京・日本武道館で開催されることが発表された。とんねるずがコンビとして音楽ライブを行うのは、実に29年ぶりのことになる。

 とんねるずの石橋貴明と木梨憲武は、2018年に「とんねるずのみなさんのおかげでした」(フジテレビ系)が終了してから、年始特番の「夢対決とんねるずのスポーツ王は俺だ!!」(テレビ朝日系)以外で共演する機会もほとんどなく、それぞれ個別に活動を続けてきた。そんな2人が久々に、コンビとして人前に姿を現すことが明らかになり、全国のとんねるずファンからは歓喜の声があがっている。

 とんねるずは芸人として活動する一方で、音楽にも力を入れてきた。それはいわゆる「芸人の余技」というレベルをはるかに超えたものだった。だからこそ、久々のライブに対する人々の期待感も並々ならぬものがある。

芸人の音楽活動3パターンとは

 芸人の音楽活動には大きく分けて3つのパターンがある。1つ目は、音楽と笑いが初めから一体となっているような活動をしている場合だ。もともとコミックバンドであるクレージーキャッツやザ・ドリフターズはその典型例である。

 2つ目は、テレビ番組などの企画物として歌を歌ったりする場合だ。地上波テレビに今よりも勢いがあった80〜90年代には、バラエティ番組から多くの音楽ユニットや楽曲が生まれていた。番組内で「オリコン○位以内に入らなかったら解散」というような企画が行われることも多かった。

 3つ目は、芸人としての本業とは別の形で音楽をやる場合だ。ビートたけしや明石家さんまは、若手の頃には一種のアイドル的な存在として人気を博していた。そんな彼らはコミックソングではないシリアスな曲調の楽曲を歌ったりもしていた。島田紳助が率いる「紳助バンド」のように、バンドとして活動をするケースもあった。

「一気!」から始まった華々しい音楽活動

 この分類で言うと、とんねるずの音楽活動は2番目と3番目の混合で成り立っている。彼らが実質的な歌手デビューを果たしたのは、1984年にシングル「一気!」をリリースしたときである。

 素人の女子大生を起用した伝説の深夜番組「オールナイトフジ」(フジテレビ系)に出演していたとんねるずは、自分たちが高卒であることをネタにして、女子大生たちを相手に嫉妬混じりの怒りをぶつけて暴れていた。

 そんなとんねるずが勢いに任せてリリースした「一気!」は、彼らも想像していなかったようなヒット曲となり、この曲を引っさげて当時の人気番組「ザ・ベストテン」(TBS系)にも出演を果たした。ここからとんねるずの華々しい音楽活動がスタートした。

見事に作り込まれていた曲

 1985年にリリースされたムード歌謡テイストの「雨の西麻布」はオリコン週間5位の大ヒットとなり、とんねるずは人気歌手の仲間入りを果たした。その後、彼らはさまざまなタイプの楽曲をリリースするようになった。

「ガラガラヘビがやってくる」「がじゃいも」などの子供向け楽曲から、「情けねえ」「一番偉い人へ」などの社会派メッセージソングまで、とんねるずは幅広いジャンルの楽曲を巧みに歌いこなし、歌手としても大成功を収めた。90年代以降は、とんねるず名義の活動の代わりに「野猿」「矢島美容室」など別ユニットでの活動も行っていた。

 とんねるずの楽曲に共通しているのは、悪ふざけと真面目さが奇妙に同居しているところだ。楽曲のコンセプトや歌詞の一部がふざけていることもあるし、音楽番組に出るときの彼らは必ずと言っていいほどコミカルなパフォーマンスに終始していた。

 だが、曲自体は見事に作り込まれていた。いまやアイドルプロデューサーとして時代の寵児となった秋元康の作詞が、とんねるずの音楽活動の方向付けに大きな影響を与えている。

歌手としての輝きは失われていない

 また、何よりも歌手としての2人のポテンシャルが高い。長身でスタイルのいい2人は、真面目に歌ってもふざけても絵になる格好良さがある。木梨は器用で歌唱力が高い。

 石橋は純粋な歌の上手さでは木梨にやや劣るものの、派手な動きや表情で観客を惹きつける天性のパフォーマー資質がある。それぞれが強い個性を持ちながら、歌手として並んで同じ曲を歌うときには見事な調和を見せる。音楽活動をこれほど高いクオリティでこなせるお笑いコンビは後にも先にもいない。

 とんねるずの音楽は、企画物であると同時に本格的でもあるような、ほかに比べようがない独特のものだった。彼らにとっては初めからふざけることと真剣にやることが表裏一体だったのだ。今後の音楽活動でもそれは変わらないだろう。

 すでに還暦を超えた2人だが、歌手としての輝きはまだ失われていない。今年の武道館ライブはとんねるずの新たな伝説の幕開けとなるだろう。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。

デイリー新潮編集部