医療保険は「ほぼ確実に損」? 「35歳男性・85歳まで」で試算した「驚きの結果」

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) 2023年12月23日 10時45分


「医療保険」は日本で一番人気が高い保険です。しかし、実は役に立つ場面・条件が限られています。しかも日本では医療保険に入らなくても病気・ケガの場合に受けられる公的保障が充実しています。医療保険に入って医療費に備えたはずが、家計が圧迫される…ということも起こり得ます。保険に詳しいCFPの横川由理氏の著書『2024~2025年版 保険 こう選ぶのが正解!』(実務教育出版社)より一部抜粋してお届けします。

医療保険は実は「使えない」?

◆「通院」には使えない医療保険

日本で一番人気が高い保険が「医療保険」です。

医療保険は、病気やケガでの「入院」に備えるために加入するものです。生命保険会社をはじめ、損害保険会社や共済でも取り扱っており、数多くの商品があります。

健康保険の自己負担分や差額ベッド代、そして収入ダウンに対して、医療保険で備えることが一般的ですが、それは間違いです。なぜなら、医療費というのは圧倒的に通院のほうが多くかかるからです。

最近病院に行きましたか? 「ハイ」と答えた人のほとんどが、「通院(外来)」のはずです。厚生労働省の患者調査でもわかるとおり、70歳~74歳では、「外来」の約89万人に対して、「入院」はわずか14万人。30歳~34歳であれば、外来20万に対して入院は1万6,500人と約12倍もの差が開いています([図表1]参照)。


医療費に備えたはずが、保険料の支払いばかりかさみ、家計を圧迫することになりかねません。たしかに医療保険の中には、通院給付金のある商品も販売されていますが、こちらはあくまでもいったん入院したあと、同じ傷病の治療のために通院することが条件です。普通の通院では保障されないことに注意が必要です。

◆入院日数は短くなっている

医療保険で保障される日数は一般に60日間です。入院が長引きそうなのは脳卒中ですが、それでも1ヵ月~2ヵ月くらいです。国が社会保障費を削ろうとしているので、入院日数は以前よりも短くなってきました。

また、物価が上がると、医療費も値上がりします。入院給付金を受け取っても、医療費をまかなえなくなってしまうでしょう。

保険は「小さい保険料で、大きな保障を得られる」という特徴がありましたね。でも、医療保険は逆。「大きい保険料で小さい保障しか得られない」商品です。詳しい保険料は次項にご説明しますが、医療保険に加入するよりも、貯蓄で備える方が、よりかしこいのです。

◆保険料の「払込期間」に注意

どうしても医療保険に入りたいなら、保障される期間と保険料の「払込期間」をはっきり決めることです。子育ての間だけなど、一定期間の保障を得たいのか、それとも老後の医療費なのかを考えることがなによりも大切です。

ただし、医療保険への加入は、基本的におすすめできません。では、次項で、医療保障を得るためにどのくらいの保険料を支払うのかを見ていきましょう。

医療保険は「元が取れない」どころか「ほぼ確実に損」

病気やケガで入院した場合に備えるのが医療保険。「入るべきか?入らざるべきか?」多くの人が悩みますが、結局ほとんどの人が加入しています。というのも、死亡することより、入院する可能性のほうが高そうですし、「老後に備えたい」と考えるからです。

ですが、保険はみんなで保険料を出し合う「助け合い」のしくみです。そもそも保険で元を取ろうと考えること自体に無理があるのですが、つい「入院することはありそうだから入っておこう」と考える方が多いことをとても残念に思います。

仮に2週間の入院をして、手術給付金との合計17万円を受け取っても、一生涯を通じて払う保険料の10分の1くらいにしかなりません。

35歳の男性が1日当たり5,000円、60日型の終身医療保険に加入したとしましょう。85歳まで保険料を支払うと平均的な保険の場合、138万円になります。

この138万円を取り返そうとすると、276日間入院する必要がありますが、60日型なので続けて入院しても一入院あたり60日が上限。それ以上はもらえません。60日の入院を4回すると120万円に達しますが、その可能性は極めて低いといわざるを得ません。しかも、入院したとしても、傷病手当金を受け取れるので、給料がゼロになることもありません。したがって、「保険に入ったつもりで貯蓄に回す」という選択肢のほうが有効かである可能性があります([図表2]参照)。


しつこいようですが、そもそも保険で医療費に備えることはできても、圧倒的に支払う保険料の方が高くなります。保険で損をしたくないと考えることは、「反対に損をする原因にもなるのだ」ということを覚えておきましょう。

社会保険や貯蓄を視野に入れて、保険料というコストと保障のバランスを考えてください。その上で保険の加入を検討しましょう。

横川 由理