スタート前
スタート地点である松崎新港。
海からの風が想定していたより寒かった。
寒い、ウォーミングアップしなくちゃ。
でも気持ち悪い。動きたくない…。
バス酔いをしていた。
今回受付会場に近い三島駅に宿泊し、早朝のシャトルバスで会場まで来たわけだが、こんなにくねくねした峠道だとは…。
去年の志賀エクストリームのときも酔ってたなぁ。
なんて空を見上げつつ、
ウォーミングアップは200mくらい歩いて終わった。
スタート直前で飲む予定のガッツギアは半分も飲めなかった。
身体を温められなかったので、
「走りながら収納するの面倒だな。」
とか考えながらウインドシェルを羽織り、スタートゲートに並ぶ。
周りの顔見知りから目標タイムを聞きつつ、どの位置で走るかイメージをする。
サイコパスダディ 高木氏 7時間
タフネスモンスター Ko Kurihara氏 7時間
ならば、自分は6時間45分くらいを目標に…。
秋山穂乃果「6時間45分です。」
?!?!?!?!?!
まじかよ、
まだ女子には負けたくないプライドがあるんだよ…。
俺「6時間半目指します」(見え張っちゃった…。)
スタート~宝蔵院(9.7㎞)
スタートから宝蔵院までは9㎞(傾斜5%程度)のロードが続く。
去年のタイムからすると、トップ選手は45分を切るタイム。
自分は48分くらいをイメージしていた。
しかし、身体は正直だった。
ウォーミングアップしていない体での登り道は全然動かない。
ラップタイムは5分10~20秒を刻む。
宝蔵院通過53分。
うん、6時間半は無理♡
この時点悟りました。
思い返せば、今年8月に足の甲(リスフラン関節)に痛みが出て、まだ完治はしていない。症状はだいぶ良くなり、だましだまし11月の長野県縦断駅伝に向けて調整をしていたところ、コロナ発症。
長い距離はおろか、山すらほとんど入っていなかった。
慌てて10日前と7日前に30㎞ジョグを入れ、精神の安定を図ったところである。
練習していないのに気持ちはトップ選手。
なんてタチが悪いのだろう。
現実と向き合うにはまだ先が長すぎるほど序盤の序盤。
ふと前を見ると、前には秋山氏が走っている。
感心してしまう強さだ。
スタート時点で少し明るくなり始めていたので、ヘッドライトは早々に取った。
頭が締め付けられていると気持ち悪いよね、うん。
着ていたウインドシェルも脱ぎ、ベストに収納しようと考える。
しかし、少し考えると仕舞う場所がない。
ジェル系で前面収納部はパンパン。
背中も割と余裕がなく、ノールックでは収納が難しい。
なんて使いにくいベストなんだ!
(ベストのせいにするな)
ひとまずライトはハーフタイツのポケットに。
シェルは何とか背中の収納にねじ込む。
うすうす感じているのだけれど、
走ってるときの人間って知能指数下がるよね?
(そう思わないですか?)
こんな使いにくいベストを使うのは辞めて、
来春発売予定の新作rush 7Rが欲しい。
なんて思いながら前を走っている選手をみると、
ザックすら背負っていない選手…。
ズルい!
僕だってこんなに重い物背負いたくないのに!
そういえば、必携を持たない選手がいることは常にこの業界で問題視されている。
ここでその是非について語ることはしないが、
僕の尊敬する人物の言葉を紹介する。
「自分の子どもを抱き上げたとき、胸を張れる大人でいよう」
この言葉が全てである。
宝蔵院~こがね橋(26㎞)
この区間は走りやすい林道。
まだまだ先は長いので、ペースを上げすぎないように慎重に走る。
この区間で福島さんと知り合って、こがね橋まで並走。
秋山氏をかわして、ひとまず心の平穏を取り戻した。
Polarの時計で目標タイムを6時間半に設定しており、予定ゴールタイムはこがね橋の時点で6時間30分を少し切っていた。
まだまだ先は長いとはいえ、こがね橋の標高を考えると、ゴールまで登りより下りの方が多い計算。
意外といい感じなのか?
今思い返すと、この時点ではまだ楽観的だった。
こがね橋~仁科峠(40.2㎞)
走りやすいサーフェスだが、細かいアップダウンとここまでの距離によって段々と脚に疲労が溜まってきた。
そして、この辺でお腹に違和感が出始める。
胃腸のトラブルではない。
ジェル焼け?とかいうやつかもしれない。
ジェルを飲むと口の奥というか喉というか、
なんか痛い。
そして飲んだ直後は少しの間、気持ちが悪い。
胃がムカムカするというか、
上手く表現できないけどそんな感じ。
普段は30㎞前後のレースしか走らないため、ジェルを2~3個以上取ることはなかった。
ってかいつもはガッツギアだ。
今回さすがにガッツギアでは重すぎたため、エナジージェル14個、30分に1個の摂取を続けてきたが、この甘さは身体に合わない。
長い距離はこういう難しさもあるのか。
仁科峠のエイドにあった「俺は摂取す」を補給すると、ジェルの気持ち悪さはなくなった。
つまり、濃縮されたジェルの摂取が僕の身体には合わないということか。
ゼリータイプの方が僕の身体には合っている。
また一つ学びがあった。
仁科峠~土肥駐車場(51.2㎞)
仁科峠のエイドを越えたところで星野さんから
「穂乃果ちゃん上げてきてるよ!」
と言われ振り返る。
このまま逃げ切れると思っていたが、甘くはなかった。
「自分の調子が悪いのではない。秋山選手の走りがすばらしいのだ。」
と彼女を心の中で称賛した。
秋山氏「後ろについてしまってすみません。」
なんて礼儀正しいんだ。
女子には負けたくないとか思っていた自分のちっぽけなプライドが恥ずかしくなった。
ここまできたら彼女をできるだけアシストしよう。
上田瑠偉選手が高村貴子選手をアシストした例があるように、
中途半端な結果を残すくらいなら、彼女のために走ろう。
心からそう思うことができた。
「ペースメーカーに使ってもらっていいから上手く利用して!」
「ありがとうございます!」
という微笑ましいやり取りもつかの間、
直後の木段(階段)登りで速攻ぶち抜かれ、その後彼女の姿を拝むことはなかった。
見栄を張って申し訳ありませんでした。
この辺から登りも下りも木段木段木段木段木段木段木段木段木段。
景色は良いのに段木段木段木段木段木段木段木段木段。
ペースが落ちて徐々にゴール予定タイムが目標+30分、40分、50分と落ちていく。
後半が木段地獄なんて聞いてない…。
7時間切れないかもしれないと不安になりはじめる。
土肥駐車場~ゴール(69.1㎞)
ここからはほぼ下り。
走りやすい林道であってくれ!
と願うも、木段や走りにくいサーフェスが続き思うようにペースは上がらず。
体幹を支える筋力も残っておらず、疲れ切った体にひたすら鞭を打ちゴールを目指す。