冷たい空気を切り裂くように、倫子(みちこ)が僕と長友の間に割って入った。倫子は僕と長友に飛び蹴りをくらわす。
たいして痛くないのだが、思わず「イテェ」ともらす。
「ええ歳したネェちゃんが飛び蹴りかいな」
長友があきれて言った。
「いい年したヤロウがメンチ切ってるのがいけないんだよ」
倫子は今日も長友の揚げ足をとる。
僕ら3人は同じ年に同じ街で生まれた、幼馴染ってやつだ。長友と僕と倫子は小さいころよく遊んだ。中学になると長友はいわゆる「ヤンキー」になったが、心配する僕とはうらやらに、「ヤンキー長友」を倫子は喜んでいた。原チャに3ケツしたこともあったけか。僕と倫子は同じ高校に入ったが、長友は相変わらずだった。その後、僕は大学に入学し、倫子は彼女いわく、「晴れて」浪人になり、長友は彼いわく「エスカレーター式に」とび職になった。
3人で会うのは数年ぶりになる。僕はそのままサラリーマンになった。倫子は受験をやめて留学し、なんたらかんたら、という横文字の職業になった。長友は結婚して一児のパパだ。なんだか可笑しい。
「倫子、長友不倫中だってさ」
僕がけなすように言うと、倫子は快活に笑った。
「そんなことでいがみあってたのぉ?」
倫子の「ばっかじゃ~ん」という笑い声に僕はため息をついた。倫子はいつも長友の「非行」を喜んでいる。
「ミチ、オマエ、出世しとんやな」
倫子はきょとんとして答える。
「ぜんぜん」
僕らは笑った。こんなにまでも道がそれてしまった3人。僕はひとりだけ置いていかれたような気がした。
「挫折すんなら今のうちやで、トシ」
長友がにやにやしながら言った。
「うぜー、わかってるよ」
僕は、うぜー、を繰り返した。
この2人は向かい風に真っ向から立ち向かっている。いつも。なのに僕はいつも風が収まるのを待っている。
「まぶしいな」
長友は太陽に目を細めた。思わず僕と倫子が噴出す。
「青春映画みたい」
僕が思っていたことを倫子が笑いながら言うので、僕はさらに笑う。
――今がいちばんと、いつだって思えるような生き方をしたいの――
いつか倫子が言った言葉を思い出す。
「そういや、トモのお子さん名前なんだっけ?」
倫子が長友に訊く。
「あほ、覚えとかんか」
僕は青春映画の登場人物のような、そんな心を持ち続けていきたい。正真正銘の大人になってしまってからも。