序章を読めばこの本のすべてのエッセンスが詰まっているのですが、手島さんの主張は以下の通りです。


  • 企業価値は、将来生み出されると期待キャッシュフロー(CF)をリスクを反映した割引率で割り引いた現在価値の総合計である。
  • 企業価値を高めるには、本業からのCFを持続的に増やす以外にない。
  • 本業からのCFを増やすとは、付加価値の高い製品・サービスを適正な利益を取って顧客に提供し、集金を厳格にやることを意味する。
  • CFを生まない仕事は機会損失に過ぎない。そのため、CFを生み出さないコーポレートガバナンス改革(ROE、株主資本コストを意識した経営、社外取締役導入等)は、企業価値になんら影響を与えない。
  • 特に、最近ROEを経営指標に掲げる企業が多いが、「ROE逆算経営」が日本企業にはびこっており、本来CF経営の結果として改善されるべきROEが目的化しており、本末転倒が発生している。
  • ROE(=当期純利益/自己資本)の危険性は3点あり。
  1. 割り算の罠:分子(当期純利益)を増やすだけでなく、分母(自己資本)を減らすことでもREOは改善する。
  2. 投資家の利害:自己資本(分母)を小さくするための株主還元により、投資家は利益を得る。なので、投資家からはREO改善要求が出るのは当たり前。
  3. 経営の短期主義助長:当期純利益(分子)を大きくするために、将来の成長投資である研究開発、設備投資を凍結することでもREOは改善する。
  • ROEは逆算することで改善が可能なため、CFの絶対額を経営目標とすべき(投資家が求めるものも企業価値の絶対額のため)。
  • CFを増やすために付加価値の高い製品・サービスを開発し続け、持続的に高水準の営業利益を維持するためのキーファクターは「経営者・社員」。
  • 会社が誰のものであっても、経営の主役は経営者と社員であり、彼らが考え、働き、汗をかいて競合他社が提供出来ない製品やサービスを作って初めて利益率が向上し、企業価値が創造される。
  • そのため、CFを生み出さないROEを始めとするコーポレートガバナンス改革に振り回されるのを止めるべき。

私の会社もご多分に漏れず、ROE10%以上を経営指標としております。


今年の中期経営計画の説明の際に、社長が自社株買いを発表し、その後株価が上昇しております(それでROE改善させようとしていたのであれば楽な仕事です)。


社外取締役も導入しておりますが、元官僚/元検察官/公認会計士/弁護士/メインバンクの顧問等、事業のことなど何も分からないだろうメンバーで構成されており、手島さんのいうCFを生み出す要素は何一つありません。


日本には昔から近江商人の経営哲学「三方よし(*)」が広く知られていますが、コーポレートガバナンス改革等と横文字ばかりを導入しようとせず、日本の文化・特性の中で育まれてきた昔ながらの経営の仕組みや考え方を徹底していく方が重要なのではないかと個人的には思っています。


(*)「商売において売り手と買い手が満足するのは当然のこと、社会に貢献できてこそよい商売といえる」という考え方


コーポレートガバナンスに違和感を感じている方だけでなく、ファイナンスを学んでいる方にとってもとても勉強になると思います。