beautiful days...
“タラレバ(if only)”の中で
静かに温められてきた「好き」
「……あの時、言えなかった。
もし違う人生だったら、
きっと――好きだって伝えていたと思う。
でも俺は、それを現実には選ばなかったんだ。
何でこのタイミングで、君と出逢ってしまったのだろう。心の奥の“タラレバ”の中に、いつも君がいる。」
そんなことを考えながら、ふと顔を上げた。
夕暮れの通りに、
見慣れない小さな灯りが ぽつんと灯っている。
看板には、白い筆文字で こう書かれていた。
「タラレバ食堂」
え? そんな店、前からあったか?
足が勝手に止まり、
次の瞬間には暖簾をくぐっていた。
あ、アレ?
彼女が1人で切盛している。
こんな事ってあるのかよ? チリン―鈴の音が響く
早速中に入る。そして、目を疑った。
カウンターの中に立っていたのは、彼女だった。
白い割烹着に、髪をまとめ、
いつものようにまっすぐな眼差しで
湯気の向こうから俺を見つめている。
「いらっしゃい。……ひとり?」
声が、あの頃と変わらなくて、
胸の奥が一気に熱くなる。
「え?なんでここに……」
うまく言葉にならない。
にっこりと、少しだけ意味深な笑顔を浮かべる彼女。
まるで俺の胸の内を、ずっと前から知っていたみたいに。
カウンター席に腰を下ろすと、彼女が言う。
「うちはタラレバ定食のみなんです。よろしくて?」
俺は、頷くしかなかった。
心臓がやけにうるさい。
しばらくして、湯気を立てながら盆が置かれる。
🐟 主菜:タラレバいため
──もしあの時、ほんの少し勇気があったなら。甘さと涙の塩味が、冷めてもなお、胸にじんわりと広がっていく。
🥗 副菜:スパゲッティサラダ
──長く続く麺は、ふたりの縁。彼女というソースが、やさしく心に絡みついて、離れない。
🍚 ご飯:五穀米
──時間と記憶を噛みしめるたび、味は深くなる。
あの頃の一粒一粒が、いまも心の底で息づいている。
🍵 豆腐の味噌汁
──崩れやすい想い。あたたかいうちに、言葉にして飲み干せばよかったのに――
🍡 デザート:未完(ミカン)のゼリー
──「いつかまた」「また会えるよ」
甘くて、少し酸っぱくて、固まったままの未来。そっとスプーンで掬って、また元に戻してしまう。
タラレバ定食。
それは俺が、胸の奥で何度も温め、
冷ましてきた“もしも”のフルコース。
まるで、俺の心の奥を
そのまま盛りつけたような定食。
俺は、箸を持つ手が少し震えていた。
彼女の瞳は、まっすぐ俺を見ていた。
曖昧さも、匂わせも、逃げ道もない。
あの時、言えなかった言葉たちが、
湯気の向こうにふわりと浮かんでいく。

