苺楓の祖母みつゐは、苺楓が生まれる前に亡くなった。父の彰ニや祖父の繁造からは、
「お婆ちゃんは、病気で亡くなったんだよ。」
と幼い頃から聞いていた。しかし、みつゐの死の真実は違った。人から裏切られ、傷つき、交通事故の後遺症があり、体が辛く、自宅で自らの命を経っていたのだった。初めて真実を知った時は、ショックというより、よっぽど辛かったのだろうと切ない気持ちでいっぱいになった。
苺楓は、繁造とは年の離れた親友のように仲が良く、学校から帰宅すると、繁造の仕事場におやつを持っていき、繁造とおやつを食べながら、繁造の話を聞くのが楽しみだった。
繁造は、旅行が好きで苺楓にお土産をよく買ってきてくれた。そのお土産の中でも一番のお気に入りは、赤い花の絵柄が付いた合わせ鏡だった。朝起きると出し、自分の顔を見て身だしなみを整えていた。
ある時、繁造とおやつを食べながら、繁造の話を聞いていると、繁造が苺楓に
「合わせ鏡の話をしっているか?」
と聞いた。
「どんな話?」
「丑三つ時に合わせ鏡を開き、鏡どうしを写し、
自分の顔を写していく。5番目に写った自分の顔が
見えたら、亡くなった人が生きている年と日時を言うと、時空を越えて逢いに行けるらしいぞ。」
「それ、七不思議?」
「さあ、爺ちゃんの友達から聞いたんだよ。」
「ということは、婆ちゃんに逢いに行けるね。」
「そういうことになるね。でも一つだけ約束があり、絶対に過去を変えちゃだめらしい。もし、変えてしまうと、元にいた時代に戻れなくなり。元の時代では、存在しなくなるので、命は消えてしまうんだ。」
「なるほど。例えば事故で亡くなった人を助けてしまうとか?」
「そうじゃ。助けてしまったら未来が変わってしまうからだ。」
「ちょっと怖いけど、婆ちゃんに逢いに行ってみたいかも。」
と苺楓は言い、食べかけのおやつをまた食べ始めた。
苺楓は、繁造から聞いた話がしはらく頭から離れず、どうしようか考えていた。でも、みつゐにはやはり逢ってみたかったので、繁造に話し、合わせ鏡の件をやってみたいとお願いをし、11月18日まで待った。
そして、11月18日の夜中の1時半に目覚まし時計をセットし、繁造と起きて、家のみつゐの仏壇がある部屋に行き、繁造に確認をした。
「爺ちゃん、婆ちゃんが亡くなったのは何時?」
「昭和49年11月20日。」
「了解。亡くなる2日前に行ってくるよ。」
「そうか。それでは、亡くなる前日に戻ってきなさい。けして、婆さんを助けるようなことをしてはならないよ。そして、合わせ鏡は戻る日までちゃんと持っていないとだめだよ。万が一、鏡が割れたら時空を越える事は出来なくなるからね。」
「わかったよ。必ず約束は、守るよ。」
苺楓は、そう言うと合わせ鏡を取り出し、鏡どうしに自分の顔を写していき、5番目の自分の顔が見えたら
呪文を唱えるかのように
「昭和49年11月20日へ。」
と言った。すると、ピカっと鏡が光り、苺楓は気を失ったかと思うと、体が鏡へ吸い込まれ、繁造の前から消えた。繁造は、合わせ鏡を拾い、自分の部屋へ戻った。