本当に、バカは困る。

困ると思いながらも、わざわざ会社のメールに転送し、仕事のふりしてじっくり悩んだ。悩んだ末に、ちょっとテンションを合せていこうという結果に落ち着いた。

「おつかれ~~。杉村です!最近メールくれてるのに返信しないでごめんね~~。忙しくてさ。。。」

あたしはメールでは非常にぶっきらぼうなタチである。顔文字とかなし。できれば用件のみ。友達にもし、上のようなハナシを振るとしたら「おつ。返信しなくてごめん。なんだった?」もう名乗る気すらないから!!

とはいえ、今回あたしは初めてメールをするのである。男としてどう、とかじゃなく、人としてそんなぶっきらぼうなメールはまずいだろ。ならするな。


で、彼から帰ってきた返事がこれだった。

「杉村ちゃんから返信くれたね♪めずらし♪いいことあるだろうな、今日♪」


強い・・・


会社のメーラーに送られてきたため、あたしはその場でどうとも言えない感情に駆られた。強すぎる、この男

あたしはモテ期がやや遅い。なんせ大学デビュー後である。その後、実は若干のモテを経験していたが、その頃のあたしにはすでに夫がいたため、その話をすれば男は蜘蛛の子散らすように逃げていったものである。

もてるのは楽しかったが面倒はごめんだ。あたしは飲み会で、さんざんちやほやされた挙句に、最後に結婚していることを明かすようなしょうもないおばはんだった。ま、きちんと最後には言うからいいんじゃないかと

で、今回もそれに準じてみたわけだ。


「ごめんごめん、夫とメール交換することしか最近無くてさ、メール返すことに慣れてないんだよね~~」



さて、どうでるかな。

送信ボタンを押すのにずいぶんためらいがあったが、まあそんなことは置いておく。

押してしまった後、ちょっとすっきりした。さあ、お前も蜘蛛の子を散らせよ!


案の定、その後信は途絶えた。あたしはラッキーと残念の半分くらいの気持ちで、仕事仕事仕事、と唱えて書類をシュレッダーにかけた。



その日の夜、例によって残業だったので、あたしは野菜ジュースと春雨麺で頑張っていたのだ。夫にはメール済み。また、カップラーメンを食べてるかな

特段仕事が詰まっているわけじゃない。いつもこんなもんだ。ルーチンとなった10時、11時帰りに思い入れもなく、また書類をさばいていた。


その時間にメールが来るのはまれだった。だから気が付いたのだけど

「ねえ、今度ご飯行こうね♪」


イタリア人決定。


あたしは天井を見上げて固まってしまった。首筋がキモチいい。

髪の毛が、頬を流れて首にたまった。

すごいバカだなあ。この人…



ああ、あたし、本当に押しに弱い。


鼓動を抑えるため、仕事をしばらく放置した。コーヒーを飲むとやばそうだから、ほうじ茶を淹れに行った。




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メールは、たびたび送られてくるようになった。しかも、必ず「杉村ちゃん」だ。

あたしの中の「彼」像は見る間に崩れていった。当たり前だ。ほぼ話したこともないオンナ、ちゃんづけするのってバカだ。そしてバカは彼だ

あたしはイメージとして、渋く、シャイで、不器用な男を想定しており、またそうでいてほしかったのだ。まさかこんな、スルーしまくっているのにガンガンにメールを送りつけてくるようなバカであって欲しくなかった。

いるんだなあ。バカって。以下メール抜粋。

「杉村ちゃん♪今日はどうしてる?」

「杉村ちゃんがいるから仕事がんばれるな~~~~!!会えたらもっと嬉しいけど」

「今日は暇だねえ。杉村ちゃんとメールできなきゃ帰ってるよ」

「杉村ちゃん♪今度、ご飯イコ♪」


あたしのなかの狼が叫ぶ。

こいつ、バカ!!!バカバカバカ!!!

だが、人間関係に淡白な方のあたしとしては、妙に感心してしまうところもあった。こいつ、嫌われるとか思わないのかな?国が違うの?イタリア?

そう思い始めると人間、疑り深くなるものである。ふと、こいつ…と思った。

こいつ、…違うひとと勘違いしてねえ?


「彼」からのメールは、たいていこう始まるのだ。「おはよ♪べっぴんさん♪♪」

べっぴん…

繰り返すがあたしは、彼と研修の時に会ったきりだ。その時の同期は大変に多く、あたしのことなんか覚えてないと思われる。

それよりなにより、あたしはべっぴんといわれるタイプじゃない。

一口に女と言っても、様々タイプがいると思う。あたしは、褒める時に「きれいとかべっぴんではなく、かわいいとか優しそうだとか言った方が」いいタイプだ。卑下しているわけじゃない。丸顔童顔、身長150センチの女をきれいというホストはクビだって話だ

同期にはあきらかに、きれいなタイプの子もいて…その子のことじゃねえの?と疑った。

あたしはカマをかけることにした。つまり、初めてのメール返信だ。

すごく考えた。考えたってことは、後を考えたってことだ。


本当に、あたしは人間関係に弱くて押しに弱い。

このバカでずうずうしい男に、あたしはすでに嫌われたくはなかったのだ。


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今回のメンバーは楽しい人ばかりだった。

あたしは、飲み会の帰り道でご満悦だった。

飛びぬけて目新しいことのない乾杯、ほどほどの愚痴。

かわいい範囲内ののろけ、変りない配偶者の話

「辞めたい」と「新しいことを思いついた」は、いつもだれかが言っている。それを実行する場合もあるし、しない場合もあるし

そつの無い、完璧な飲み会を提供できた。

あたしは、肩の力が抜けたようだった。いつもそうだ。飲み会の幹事をやると、結構気張っている。そして滞りなく終了したとき初めて、「良かったな」と思える

やりこなそう、やりこなそう。それは、きっと明日につながるから。



メールが、来ていた。

あたしも酔っていたのでケータイを見ていなかったのだけど、それは2件来ていた。同じメアドから。そして知らないメアドから。

誰だろう?

仕事柄、メールが入ることは多かった。今回のも、もし面倒ならスルーしちまうぞと思っていた。

「杉本さん?」

疑問形からメールは始まっていた。

「杉本さん?あの、同期の、西村です。」


焼酎をストレートでいっていたからだけではない、異変が起きた。胸が痛い。

西村、とは、まさに「彼」だった。

「今日はメールもらっててありがとう。行けなくてごめんなさい。… …」

内容は、実に事務的な行けなくて済みませんメールだった。なあんだ、と思ったが、次のメールも見てみる。

「ところで、杉本ちゃん。」

なんだよ!!!!

なぜか、2件目のメールはちゃん付けだった。なんでだ。この間に何があった。

「杉本ちゃんて、おれと同じ仕事してるのよね?今?」

あたしの中で、見る間に「彼」の評価は落ちていった。

アホか。知らない女に、いきなりちゃん付けをしてどーする。

酔って、メールを打つのが面倒だったからもある。あるが、スルーに決定した。阿呆に関わる気はない。



ケータイを閉じたが、あたしは眼をぎゅっとつぶっていた。

なぜだかすごく、ダッシュしたい気持ちに駆られて、少し走った。

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