『もしも~し。おはよ~、もう朝だから起きて~』
『…おはよ~、もう駅着いたの?』
『着いたよ~。今日も寒いから暖かい格好した方がいいよ~』
『わかったよ~、電話ありがとう^^お仕事頑張ってね♪』
『はーい、いってきま~す^^』
―あれから3カ月
私は毎朝6時頃、出勤途中に翼に電話をして起こす事が日課になっていた
仕事の休みがほとんどなく、出勤も6時半から20時半までと遅かったので
少しの時間でも、なるべく翼と連絡を取る様にしていた
“あの日”から、驚くほど日々は平和になった
私はずっと働きたかったパン屋への仕事が決まり
翼は専門学校に行きながらバイトをしていた
私の休みになれば必ず二人で会い、デートを重ねていた
本当に
“あの日”がまるで嘘の様に穏やかに日々は流れていた
まだ、たまに人格が出たり過呼吸になったり
完全に普通には暮らせてはいないけれど
それでも
あの頃に比べたら、それは幸せ過ぎる毎日だった
翼とただ一緒にいられるだけで嬉しくて
翼が私にとって本当に特別な人だという事を
会ったり、電話をしたりするたびに心から実感していた……
翼はいつも優しくて
いつでも私を優先してくれた
私が過去の事を思い出し、苦しんでいる時も
いつも
『大丈夫…。たくさんたくさん辛かったけど…
もう、本当に終わった事だから……だから、安心していいんだよ…
たくさん頑張ったんだから、もうこれからは幸せになれるから、
大丈夫だから……もう安心していいんだよ…』
そう言って気持ちを落ち着かせてくれていた
翼がいればなんだって乗り越えられるし
どんな事があっても、きっと幸せになれる…
自分の中で、そう確信していた
そんな日々を過ごしていたある日。
翼とデートで水族館に来ていた日の事だった
水族館の中にあるレストランで食事をしながら翼が言った
『ねぇねぇ、これからさ、お金貯金しない?』
『…え?貯金?』
『そう^^あんまり二人で無駄使いしないでお金貯めるの^^
あ、もちろんナミちゃんは好きな服買ったりしていいよ♪
デートの時のお金を節約するって事^^』
私の事を本名で呼ぶ様になっていた翼が
私の口にチョコレートケーキをフォークで差出しながら言った
私はチョコレートケーキの甘さを味わいながら少し考えて翼に言った
『…無駄使いし過ぎてた…?』
『ううん、そんな事ないよ^^
だけど、もう少し節約してさ……
二人の将来の為のお金、貯めない?』
『……え?
二人の将来って??』
私はこの時本当に意味がわからなくて
翼はもしかして、この先、一緒に海外旅行とか行きたいのかな…と
本当にトンチンカンな事を考えていた
『……だからね、俺、結婚するならナミちゃんしかいないと思ってるから
だから結婚する為のお金を、今から少しずつ貯めたらいいんじゃないかなって
そう思ってさ^^
だから、俺のバイト代は携帯代以外は全部ナミちゃんに渡すから
ナミちゃんの口座にそれ貯金しておいてくれない?^^』
翼の言葉が衝撃的過ぎて
まったく頭に入ってこなかった…
結婚…?
貯金…?
わけがわからなくて、私は目を見開いたまま翼を見つめて固まっていた…
そんな私の手を取り、優しく握り、頬笑みながら翼は言った……
『ナミちゃん……』