琉球新報に、こんな記事がありました。



かんしゃくもちの子どもに手を焼き、イライラしていたA子さんは「お子さんと一緒に飲んでね」と甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)という漢方薬を処方されました。子どもと2人で飲んだその夜から、子どもの夜泣きがなくなり、母子ともにイライラしなくなりました。


朝、腹痛が続き学校に行けなかった高校生のB子さんは、小建中湯(しょうけんちゅうとう)と大建中湯(だいけんちゅうとう)という漢方薬でおなかの痛みがとれ、学校に行けるようになりました。
 いつも風邪をこじらせ、喘息(ぜんそく)だった70歳のCさんは、桂枝湯(けいしとう)と麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)という漢方薬を飲むようになり、風邪をひかなくなりました。


漢方薬は数千年の長い年月の臨床経験で、効果や安全性が裏付けられた薬効成分のある植物、鉱物の組み合わせです。特に甘麦大棗湯という漢方薬の薬味は食材のみです。漢方薬が効く現状から、いかに現代人が食養生を怠っているかを感じます。


西洋医学で検査しても異常がないのに、現代社会においては、疲労感など体調が悪い人々が増えました。


漢方医学には昔から「心身一如」という心と体は切り離せないものとの考えがあります。病気は本来の全身状態のバランスが崩れたものととらえ、一人一人の体質に応じて、バランスを整えることを治療の主体におくため、西洋医学のように病名がつかなくても、患者さんの症状に応じて処方を考えることができます。


人間は、ストレスにさらされると体も反応します。昔から、嫌なことにあったら「はらわたが煮え返る」とか「断腸の思い」と、体と心は相互に影響しあっていることを表す言葉があります。胃や腸の痛みが長いこと続けば、気分もめいり、その感情がさらに胃腸に影響を与える、という悪循環を繰り返すことがあります。
 


胃腸症状を訴え、医療機関を受診し、胃カメラなどの検査を受ける患者さんの60~70%は、消化管の機能異常と言われます。医療の検査や治療技術の進歩のおかげで、人間は寿命が延び、昔の「死の病」から復活を遂げるようになりました。


しかし、ストレス社会で増えていく心の病が、体の機能異常や痛みとして出たとき、現代医療の中で見落とされているのも事実です。


1996年に公的に認められた「心療内科」という診療科は、ストレス社会でブームとなり、正しく認識され難い状況で広まった印象があります。心療内科は「心身相関」を大切に、体と心の両方から人間を診る心身医療を目標にしている科です。

ストレスによって生じる不調や症状は、まさに「心身一如、心身相関」に基づいて治していく必要があります。患者さん一人一人にそれぞれの疾病に至る物語があり、心身医療ではそれを重視します。その物語の中に、いつまでも治らなかった病気の解決の糸口があります。


新しい診療科である心療内科の心身相関の考えと、1400年の歴史を持つ日本漢方医学の心身一如の考えはストレス社会となった現代に通じており、西洋医学と漢方医学の統合が必要な時代になるでしょう。
(仁井田りち、クリニックおもろまち)


琉球新報2008/05/27