リバース | 風紋

風紋

鋼の錬金術師ファンの雑文ブログ



  リンとランファンに愛が偏っています

性的描写がありますので、自己判断で読まないほうがいい方はお戻りください。






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「あ、あの・・・若。」
 物音の絶えた夜更けの部屋に消え入るように遠慮がちな声があがる。
ともされた常夜灯はごく小さく、寝台の足元のほうは闇に沈んでいたが
夜目のきく者にはそこここに投げ出された衣服が見えた。
白い腕を華奢な身体に添わせ膝を抱えるように身を縮こませている娘は
彼女を膝の上で横抱きにする若い男を見遣る。
頭の上で纏めあげた髪の黒のほかは、彼女の姿はすべてその象牙のよう
に滑らかな肌色だけの素裸だった。

「若、こんなの、恥ずかしいです・・・」
羞恥に頬を染めつつ訴える黒髪の娘、ランファンは彼女を両腕のなかにか
かえこむように抱いてさも嬉しげに目を細めている若い男に訴える。
シンの国の大地の色である欝金で染めた黄色い上着を着たままの若い男は
彼女の主にしてシン国第十二皇子のリン・ヤオ。
上着も脱がぬままの主の前で、自分だけが身体を覆いかくすもの何ひとつ
なく肌をさらしているのは、あまりにたよりなく恥ずかしくてランファン
は眼の前のリンの顔をうらめしげに見遣った。
(いつもは私の腰帯を解いた後には、若も服を脱いで抱きしめてくださる
のに、なんで・・・)


「んー?恥ずかしいってどうして。」
そんなランファンの内心など知らぬようにリンは至って暢気な声で訊ねる。
今日のリンは情事というより戯れあいのように彼女を寝台に引っぱり上げ
クスクスと笑い声さえあげて、おだやかな愛撫ばかりを施していた。
濃密な性のにおいのない愛撫に心を許し、幼子のように主の胸にもたれか
かっていたときに受けた口づけはごく軽いものだったからランファンも同
じように返していただけのはずなのに。
繰り返されるキスの合間にリンは彼女の肩から上衣をとり去り、サラシを
ゆるめて腰までずり落としてしまった。
慌てるランファンに今度は容赦ない深く濃い口づけをして抵抗力を奪った
彼は、そのまま纏っていた全てのものを取り去る。
かくして寝台の上に着衣のままのリンが胡坐で座りこみ、そのひざの上で
横抱きにされた一糸まとわぬランファンが羞恥を訴えているのだった。
「私だけ裸なのにどうして若は・・・」
まるで気にしていないような顔のリンは突拍子も無いことを言い出した。


「じゃあ、脱がせて。」
「え?」
「俺にも裸になって欲しいんでしょ。だったらランファンが脱がせて。」


いたずらっぽい口調でさらりと言われたその口元は微笑んでいるのに、
何かを訴えるように強く光る目は笑っていない。
糸のような目の目尻を下げ、いつも笑顔を浮かべているのが習い性の
主だが、彼は時折こんな胸を衝かれるほどに強い目をすることがある。
水面下での工作を指示する時、大切なことを伝えようとする時、困難な
状況を打開する策を考えていたりする時・・・
ランファンはいつもは飄々とした態度を崩さぬ主の、まれにしか見せぬ
その眼差しにひそかに惹かれていた。


(なのに、それと同じ目でなんてことを仰るんですか若!)


内心大いに抗議をしたかったが、実際にはこんな場面で主に向かって意見
出来るほど大胆にはなれない。
第一幼い頃から彼に仕えることだけを教え込まれてきたのだから、その主
の悪ふざけといっていい所業にも何も言えやしないことを、ランファンは
自身でもわかりすぎるほどよくわかっていた。
まだ後ろめたさが拭えないこうした夜のことは、女としての経験値が少な
すぎることもあってどうしようもない。
それも、あの目で見つめられては。


仕方なしにランファンはおずおずと言われたことを確かめる。
「あの、私が若の服を・・・」
恥ずかしさについ口ごもりがちになり語尾を飲み込んでしまったが、それ
がかえっていやらしく響いて自分の言葉なのにいたたまれない。
「そう。俺だけ服着たままでずるいって言うなら、ランファンが脱がして。
いつも俺がするみたいに。」
なのにそんな突拍子もないことをリンは飄々とした顔のまま言う。


もじもじと答えかねているランファンにリンは、口元に笑みを浮かべつつ
も目だけはあやしく光らせたその顔を近づけて、静かな低い声で囁き追い
討ちをかけた。
「それとも、このままで続けるほうがいい?」


断りようもない選択を迫られランファンは戸惑う。
(こんな二者択一を迫るなんて若は本当にずるい。)
恨めしいような困った顔しか出来ず主の目を上目づかいに見遣ったが、
リンは微笑した顔のままランファンに無言で返答を促す。
仕方なく主の提案を呑むことを彼女は決意したが、これはどういう企みな
のだろうとためらいが残った。
しかし自分などが考えても読みきれるものではないだろう。
おとなしく従っているだけでいいものだろうかと、ランファンは悩みつつ
も行動を起こした。


「あの、じゃあ、失礼します。」
腕を背に廻して上衣を脱がせようとすると、リンは上衣の襟をしっかりと
握って離さない。
「わ、若、手を離してもらえませんか。」
「キスしてくれなきゃ離さないよ。」
口調だけはすねたような口ぶりだが、ランファンが狼狽するのを楽しんで
いるのは明らかだ。
「言ったでしょ。俺がいつもするみたいに脱がしてみてって。」
「いつも、って・・・」
確かに主が彼女の服に手をかけるのは、いとおしげに髪をなでたり、仔犬
がじゃれるように繰り返す頬ずりの合間に幾度となく与えられる口づけの
最中だったりするのだが、そういうことなのだろうか。
「でも私、若のように上手くできるかわかりませんし。」


その言葉を聞いたリンは妙に嬉しそうに顔をほころばせ、ニッと笑って
ランファンの耳元に顔を寄せて囁く。
「いいこと聞かせてもらっちゃったな。俺、上手い?」
「・・・やだ・・・」


思わず真っ赤になってしまっていた。
こんな風にすぐ動揺してしまうから余計に主は面白がって色々なことを
自分に仕掛けてくるのだとは、わかっていても性分である以上ランファン
自身にはどうしようもない。


「ふふっ。可愛いな、ランファンは。」
可愛いなどという言葉は護衛になった自分には必要ないと思っていたが、
リンの側に改めて仕えて、そう言葉をかけられたときはみっともないほど
心が震えて面の下の頬が火照ったことが改めて浮かぶ。
思えばもうあの時には、私は忠義ではおさまりきらない感情で若を慕って
しまっていたのだろう。
しかし可愛いという言葉はどうにもくすぐったくて、揶揄されているよう
にも聞こえる。
私だって一人前なのに、いつもこうやっていいように翻弄されてしまって
ばかりなのが、どこか口惜しいのだ。


「もう、どうしてこんなにからかうようなことばかり仰るんですかっ!」
腹立ちまぎれにランファンは怒声をあげた。
今日の若はお戯れがすぎている。
怒鳴ったのは半分は照れ隠しだけど、自分とて遊ばれてばかりではいられ
ないということを主に思い知ってもらわなくては。


ランファンはベッドの上に胡坐をかいて座った主の膝の上にのしかかり、
両肩を掴んで迫った。
(若が仕掛けた遊びなのだから、私がこうしたっていいはず。)
髪を両手の指で梳くように主の頭を抱え込み、耳朶を指のあいだに挟み、
顎に片手をかけてうわむかせる。
「目をつむってください、キスしてほしいなら。」
視線の高さが変わったからか、そんな強気な言葉を出せることが自分でも
なにかおかしな面持ちになる。
まるでサマにならないセリフは我ながら不似合いだろうと思ったが、それ
をリンは茶化すこともなく素直に目をつむった。


あの鋭い目を覆ううすい目蓋の皮膚と呼吸とともにかすかに震える睫。
部屋の薄明かりにすっと伸びた鼻梁の影がおちて顔の陰影が濃く見える。
からかいの言葉を紡ぐこともなくかるく閉じられた唇。
目を閉じたリンの顔を見つめるランファンはなにか不思議な気分になって
くるのを感じた。
(リン様のこんな表情、今まで見たことない・・・)
時折見つめることのある寝顔とは全く違う、息を潜めて何かを待ち構える
ようなひそやかな顔。
鏡では目をつむった顔は見られないのだから、彼自身も自分のこんな顔を
見たことはないはずだ。
いや、誰ひとりとして知ることのない顔なのかもしれない―――。


(私だけが知ってる若の表情。)
そう思った瞬間には、胸が熱くなって思わず唇を押しあてていた。
触れるだけでは足りず上唇を咥え舐めあげるとそれに応えて口が開き更に
ねだるような吐息が漏れる。
重なり合う柔らかな感触は何度味わっても脳が痺れるほど深く底がない。
口のなかの粘膜を探りあうことは内心に触れることのようだ。
一度では気が済まず、息をついては幾度も二人は唇をあわせた。


自分からしたキスなのに、知らぬ間に夢中になって溺れそうになっていた
ランファンは重要なことを思い出す。
(これは上着を脱がすためのキスだったっけ。)
リンの手は脱がさせまいとしっかり掴んでいた上着の襟元を離れて、彼女
の腰へとゆるやかに廻されていた。


(いつもこうしてキスに夢中になってしまうから、いつの間にか服を脱が
されちゃってるのかも、私。)
妙な反省の念が浮かんだが、今はそれどころではない。
主の気がそれているうちに上着を脱がせてしまわなくては。
主の肩を抱いた手を上着の襟にかけてそっと腕のほうへずり落とすように
引っ張ると、するりと袖がぬけ片脱ぎになった。
そのまま反対の腕からも袖をぬくとリンの裸の胸があらわになった。


偉ぶらない性質からかいくらか猫背の姿勢を保ち着やせするたちのリンは、
成長期の少年らしくひょろ長い身体をしているように見えるが、衣服を脱
ぐとその肉体が過酷なまでに鍛えられたものだとわかる。
胸板はまだ少年らしく薄いが、重い剣を振い続けて出来た腕や肩の筋肉は
しなやかに盛り上がり、反対に腹は身を支えて締まっている。
(守り、手に入れるための身体だ。)
ランファンはその美しさに見とれた。
いとおしい、若の身体。
そしてこの身を守る使命をいただいた自分の誇らしさに気が高揚する。


心のままに主の身体に唇を寄せ、彼女は愛撫していく。
「え、ちょ、ランファン。」
リンのうわずった声があがったが、そのまま首筋に、肩に口づけていき、
左胸とわき腹の境のあたりにつよく吸い付いて、赤いしるしを刻んだ。


「これで、どうですか?」
普段の主からは聞けないような声を引き出したランファンは、この戯れの
首尾を得意げに伺う。
「・・・上手いじゃないか、ランファン。」
息をついたリンは、余裕ぶっているのか照れているのか判然としない笑み
で彼女に答えた。




「で、どうしようか? まだ下もあるんだけど。」


にやりと笑う主の言葉と袴下の布越しに下腹部にあたる硬い感触にラン
ファンは今度こそ本気でうろたえ、降伏するしか出来なかった。











あとがき


・・・すいません、毎度ながら最低ですね!! さ い て い っ !
ネタの蔵ざらえしてもなかなか形をつくれないスランプぎみの現在。
しかしそれを破ったのは『そらくま』さんの開設一周年でした。
お蔵のなかにナツさんの好きそうな「ランファンが上」があったはず・・・
そう思ってひっぱり出したら二日で完成しました。(爆笑)
今回はわざと「リン様」でなく「若」呼びにしてみています。
ナツさま、こんなモンでよかったらお祝いにお持ち帰りくださいませ。
ていうかこんなお祝いしかできずスイマセン。