嘉門タツオの「愛めし」

68回「ソムリエさんに会いに行く店」


 サービスを受けたいと思わせてくれるソムリエさんが東と西に居る。共に眼鏡を掛けていて人間味溢れるキャラクターだ。なぜこの料理にこのワインを合わせたのか、そのワインは何処で誰が作っているのかなどを説明してくれて葡萄の木が植っている斜面の様子や日差しまでもが目に浮かぶ。  

 東は銀座おのでらで、支配人をされている市村暢央さん。大阪のレストランで働いていたところ、白金で立ち上がったばかりのカンテサンスの支配人から何度も誘われて’07年に上京し、三ツ星を獲り続ける岸田シェフの初期のサポートをされた。元々母方の祖父母が岡山で葡萄を作っておられて、子供の頃からしょっちゅう遊びに行っていた。20歳の時に飲食の道へ進もうと決意し、パリのホテル学校に入学した時にワインと出会った。葡萄からこんなに美味しいお酒が出来るのかと感動し、産地を細かく巡って土壌と味の違いを体感する。その楽しさをみなさんに伝えたいと、ソムリエの道へ舵を切った。日本人である岸田シェフが作るフランス料理に、どんなワインを合わせるかに尽力され、的確なワインと共に立て板に水の一切噛まない説明とその人柄のファンになった。現在は寿司、天ぷらに薪焼きレストランの総支配人として総合的に腕を振るっている。

 一方西では、神戸のスペイン料理bb9(ベベック)の西川正一さんのにこやかでシャープなサービスが楽しい。18 歳で神戸ポートピアホテルに就職し、3年後にアラン・シャペルに配属される。そこでソムリエの木村克巳氏と出会い、その立ち振る舞いに憧れて資格を取得する。厳しいお客様方に育てていただいたと当時を振り返る。31 歳で退社した後いくつかの飲食を経験して、スペインの名店エチュバリで薪焼きの技術を身に付けて帰国した坂井シェフと共に元町にヌーダをオープンする。3年後に更に薪焼きの環境を高める為に店を全面改装してbb9としてリニューアルオープンした。和歌山の楢の木を2年乾燥させた薪を全ての料理に使用するコースにワインを合わせる。語り口も軽妙で、毎回感心しながらマリアージュを楽しんでいる。シェフは元より、ソムリエさんに会うのが楽しみな東西の名店だ。