嘉門タツオの「愛めし」

63回「コブクロにのけぞる なごや飯」


 デビュー以来、何百回と名古屋の地を訪れて来たが当初「なごや飯」という言葉はまだなかった。’01年に外食企業ゼットンの稲本氏が当時東京で流行っていたイタ飯に引っかけて広めたのだ。僕も名古屋の代表的な食を取り上げて、手羽先、味噌煮込みうどん、櫃まぶし、小倉トースト、みそカツ、寿がきやラーメン、あんかけスパ、コメダ珈琲のシロノワール、きしめんが登場する「なごや飯」を歌っている。

 今池にあるライブハウスのボトムラインのステージにはもう70回以上立っていて、ステージ終了後は必ずオリジナル中国料理ピカイチで栄養補給をしていた。ドラゴンズファンの聖地として有名だが、料理も素晴らしいアットホームな店だ。イカのトンビピリ辛炒めや揚げたゴボウと細切り肉の炒めでビールをグビグビ。ピカイチ風冷しゃぶや大根と白肉のトロットロ煮込みには生姜の千切りを入れた紹興酒が合う。シメの辛さが選べるピカイチラーメンで英気を養った。ちなみにライブの楽屋には昭和35年からみなさんに愛されているコンパルのエビフライサンド、ヒレカツサンドに玉子サンドを入れてもらっている。

 ピカイチと同じく今池にある中国南北酒菜味仙も大好きな店だ。台湾ラーメン発祥の店で、5階建て290席の本店はいつも喧騒が渦巻いている。これだけの人数を裁くスタッフの動きも敏速で清々しい。ここではコブクロが外せない。ニンニクを効かせた口から炎が出そうな唐辛子の旨辛さにビールが進み、箸が何度も皿と口を行き来する。わざわざ行かなければ食べられなかったのだが、5年前に名古屋駅のうまいもの通りに出店されてから俄然チャンスが増え、気付けば行列に並んでいる。新幹線で移動する前の癒しの止まり木で、辛さにのけぞる回数が増えた。栄養バランスを考えて、青菜炒めとペアでオーダーする。そんなカジュアルななごや飯の他にも、一流の名店が実は数多くある事を知ったのはまだ近年の事だ。名古屋の人は自分達が食べている美味しい物をおいそれと外の人に教えないという傾向があるという。そんな固い扉も、SNSの進化と食通の友人の導きによって次々と開きはじめた。尾張の懐の広さを益々実感している。