嘉門タツオの「愛めし」

43回「 発酵と醸造酒   カモシヤ クスモト」


   進化しながらどんどん自分の色を出していく料理人、楠本則幸さんはバーテンダーから始まった。醸造酒の魅力に惹かれて、ゆくゆくはカウンターバーのある店をやりたいという思いを抱いて、日本は元より世界を食べ歩いた。ワイナリーを手伝ったり、生産者に会いに行ったりして、食材、料理やお酒についての造詣を深めて備えるうちに、醸造酒には発酵食品が最も合うという確信を得た。シェフにとって幸運だったのは、何と言ってもマダムの遼子さんとの出会いだろう。彼女は、シェフが開店準備期間中に手伝っていた焼鳥屋さんのお客として来ていた。程なく付き合いが始まると、シェフの食に対する情熱にどんどん巻き込まれていった。そんなある日、彼女のワンルームマンションになんとワイン1,000本と共にシェフが転がり込んで来た。常時温度は16度に設定し、夏でもマフラーを巻いてワインの山に囲まれて寝る日々が2年続いたそうだ。マダムはお父さんの法律事務所を手伝いつつ、食材の事をもっと知りたいと中央市場でバイトをした。休日は2人で勉強の為に、10軒食べ歩いたこともある。そして'06年、大阪福島にkamoshiyaKusumotoをオープンさせて13年が経った。当初はあくまで醸造酒のアテとして提供していた料理だったが、その後毎月テーマを決めたコースとして進化して行く。フレンチや和食などのジャンル毎の専門料理ではなく、シェフのセンスで掘り下げた品々はフレンチ、イタリアン、中華、和食や洋食屋テイストなども取り入れて考え抜いて構成されており、毎回その手腕に感心し、感動する。そして全ての料理に合わせる醸造酒を、マダムが丁寧に説明しながらサーブする。奥には約2000本のワインと約200本の日本酒が出番を待っている。専門料理に敬意を表しつつ、自らに取り入れ昇華するのが楠本ワールドなのだ。先日伺った際、シェフがなんと有酸素運動で26キロ、マダムもジムに通って15キロ減量されていた。とことん追求する御夫婦なのだ。まだまだこの先、食を楽しみながら提供する為には健康でなければならないとおっしゃる。唯一無二の存在として、長いお付き合いをお願いしたい。