嘉門タツオの「愛めし」

24回「寿司幸本店四代目   なごり寿司コラボ」


  銀座寿司幸本店四代目、杉山衛さんと知り合ったのは、てっちり六本木浜藤の乾さん主催の新年会だった。その後様々な場でご一緒させてもらって15年になる。話題が豊富で、質問するといつも丁寧に教えて下さる。しなやかでフットワークも軽い。滋賀県にスッポンを食べに行った時は、その後京都に流れて歌舞伎役者さん等が常連の祇園のお座敷バー波木井に連れて行ってもらった。お師匠さんが三味線を弾きながら歌う艶っぽい都々逸に腹を抱えて笑った。去年NHKテレビ「ごごナマ」の「どーする、スターシェフ」のコーナーに出演された時は、ちらし寿司を作るBGMに僕のレパートリー「なごり雪」の替え唄「なごり寿司」を流してくれた。銀座のお姉さんに同伴やアフターで寿司をさんざん奢った挙句に土産を2人前持って帰られるという内容の歌で、近頃巷のカラオケで結構歌われているらしい。銀座に店を構えている杉山さんは、そんなシーンをきっと何度も目撃されて来たのだろう。先日の僕の還暦パーティーでは、杉山さんが握る横で僕が「なごり寿司」を生で歌うコラボも実現した。遊び心溢れる粋な杉山さん。寿司幸本店グループは40人もの職人さんを抱えている。若い衆に対して、いつも遊んどきなさいよとおっしゃるそうだ。寿司を握るだけなら4年もあれば覚えられるが、お前店やってみないかとお客様からスカウトされるような板前さんになりなさい。その為には絵画、映画や旅行等いろんなジャンルに見聞を広げて引き出しをたくさん作っておきなさい。感性を磨いて魅力ある人間になりなさい。お客様の好きなものより嫌いなものを覚えなさい。カウンターは対面商売だからお客様に嫌な思いをさせないのは当然の事。力まないけれど気合いを入れて心底和んでもらう、そんな板前になりなさい。おっしゃる通りだ。寿司を取り巻く状況も年々変化していて、接待は減り、外国からのお客様が増えた。杉山さんは英語も交えて外国の人にもわかりやすく説明するし、ジョークで笑わせたりもする。明治18年から続く歴史を背負って今日もカウンターに立つ。寿司を握る涼しげな笑顔と立ち振る舞いはスマートで知性が溢れている。