嘉門タツオの「愛めし」

22回「八尾のとんかつ聖地   マンジェ」



  食べログとんかつ部門全国第2位の店が大阪の八尾にあると言う。梅田でも難波でもなくわざわざ行く八尾。きっと凄い店に違いない。しかし予約を取るのが至難の業で、午前11時の開店前、朝8時半に名前を書くシステムだ。土日に至っては早朝6時くらいから並ぶ人もいるらしい。あるグルメ有名人は、八尾にホテルを取って名前を書いたのちホテルに戻って休憩してランチに出かけたと聞いた。人気店に上り詰めた秘密が知りたい。有難い事に八尾在住の知人が名前書いてくれて伺う事ができた。カウンター13席の細長い店内に油の香りが漂う。一般のロースやヘレの他に東京エックス、鹿児島黒豚、日向あじ豚やイベリコ豚の厳選銘柄豚が4種。こだわりの生パン粉は糖度が高く、荒めに引き、優しく纏わらせて植物油とラードを合わせた油で揚げる。カットされるとピンク色の断面から湯気が立ち上る。塩で食すと肉そのものの味が際立つし、自家製のソースも旨い。一朝一夕では決して到達出来ない総合力だ。シェフの坂本さんと食事をする機会に恵まれ、これまでの道のりを伺った。山口県岩国出身で、中学の時に雑誌で見た長い帽子を被ったコックさんの写真を見てカッコいいと思い料理の道に進む決心をした。大阪の専門学校を経てホテルのレストランに12年勤めて基礎を身に付ける。その後仕出し屋と魚屋をやっていた奥さんの実家を3年手伝い仕入れを勉強した。40歳になり自分の城を持ちたい、どの方向に進もうと考えていた時、ホテル時代の先輩がとんかつ屋を始めて流行っていると聞いて食べに行った。よし!これで行こう。とんかつ屋のほとんどは定食を提供する食堂だ。自分はレストランで修業したので、洋風のとんかつ屋にしようと決めた。商売を始めるにあたり地元東大阪の石切神社の参道で占い師3人に見てもらったら、全員が「東へ行きなさい」と言ったので八尾に来る事にした。それから22年。最高のとんかつを提供したいという志しを持ち生産者にも会いに行くし、もっと出来る事はないかといつも模索している。まだまだ進化出来るとおっしゃる。コック帽を被ってとんかつを揚げるシェフの背中と、自信に満ちた素敵な笑顔に会いに行こう。