「終活三部作」を作ったきっかけは。
嘉門 デビューして35年間、歌にすべきテーマがあるものは歌にする、という姿勢でやって来ました。繁華街で客引きやぼったくりが横行しているので「ぼったくりイヤイヤ音頭」という歌を作って、現在も新宿や渋谷で流れていたりね。
「終活三部作」は、横浜の常照寺(日蓮宗)の伊東政浩さんから、最近の人はお墓参りをしなくなった。親の葬儀もしないし、遺骨を電車の網棚に置いていくこともあるという話を聞いて、このテーマは歌うべきだ!と思ったんです。
20数年のネタに「HAVE A NICE DAY! 墓参るでー」というフレーズがあったので、それをベースにみんなで歌えるようにサビはベートーベンの第九にのせました。そして同時進行で「旅立ちの歌」を作りました。送られる側の気持ちを歌っのですが、一番言いたいのは「風になんてなるつもりはない、そこにいるから、きっといるから」というフレーズです。ある歌に対するアンサーソングになんです。そこにいませんではなく、そこにいると思って行くという、気持ちと行動が尊いと広く訴えたいのです。
2曲が出来た時に作詞家の阿木燿子さんと対談させていただく機会があって、「うちの主人(宇崎竜童さん)の弔辞のが評判がよくてすでに予約まで入っているんですよ」とおっしゃったのを聞いて、送る側の歌も必要やなと思い「HEY浄土!」が出来ました。そのような流れで3曲が自然に生まれたので、「終活三部作」と名付けました。
アルバムには「帰って来たヨッパライ」を収録したり、先日亡くなったさくらももこさんが支持してくれた「法事ブギ」、30年前に僕が歌った「タンバでルンバ」を入れたり。パズルのようにこれまでバラバラにあったものが不思議と収まってユニークなコンセプトアルバムに仕上がりました。いかに生き、いかにこの世を去るかという、 重いテーマを扱っていますが、それを明るく前向きなものとして表現出来たんじゃないかと思っています。皆さんからのリアクションを聞いて手応えを感じていますし、実際にお墓参りに行きましたという声も多く寄せられているので、作って良かったなと実感しています。
35年歌ってきて、ようやくこういう歌を歌える入り口に立てたのかなと。20代30代では歌う必然性も説得力もないですし。その先にこれがあった、というのが面白いですね。
||墓参りには行きますか。
嘉門 結構行く方です。菩提寺は浄土真宗で、父方の祖母が亡くなった頃からよくお墓参りはしています。でも未だにお経は理解出来ないんですよ。独特の節回しが結構複雑で(笑)。南無阿弥陀仏と言って往生できるというような、実感はまだないですが、その教えの一端を現代で表現したいとは思っています。
||幼稚園からの親友が亡くなった時には賑やかに送られたそうですね。
嘉門 本人がそう望んだので。どういうふうに死んでいくのがその人にふさわしいか人それぞれですよね。宇崎竜童さんは密葬はいやとおっしゃってます。亡骸の回りでバンドで演奏してみんなでおおいにに歌ってもらいたいそうです。片や井上堯之さんは何もしなくていいと言って逝かれたそうです。人によるんですよね。
||ご自身の葬儀は?
嘉門 僕は賑やかなお祭りにしたいです。今ラジオの番組で、この人はどの歌で出棺されるのがいいか?というコーナーをやってるんですよ。きっかけは宮川泰先生のお葬式。「宇宙戦艦ヤマト」の曲で出て行かれました。カッコよかったです。イスカンダルへ旅立たれたんやぁと。
サザンオールスターズの桑田さんとか、ヒット曲の多い人はどうしたらええねん(笑)。結局「希望の轍」で行ってもらおうと、こないだ勝手に決めたんですけどね。
僕の場合は、食を扱ったアルバムに「火を通せば大丈夫」というネタがあるので、これで笑いをとってから「旅立ちの歌」、「明るい未来」につないでいく、というのが今のところの構想です。
||来世はあると思うからこの歌ができたのですか。
嘉門 丹波さんが30年前いいことをおっしゃってます。「あの世とこの世、地続きだ」「明るく素直に生きなさい」「楽しく今を暮らしなさい」。空飛べるとか念じるだけで家を建てられるかはわかりませんけどね(笑)。
漫然と生きてそれでいいという人もいれば、なんとか痕跡を残したいという人もいます。僕は音源が残ることを前提にして活動していますが、むしろこれから歌いたいことがどんどん増えていくと思っています。介護のこと、相続のこと、実際に老いていくということ。そういうことを叙事詩として歌った人はまだいないと思うんですよ。ずっと事実関係を歌ってきたので、具体的に尿酸値が上がってどうとか、中性脂肪を下げるにはとか、棺桶の素材は何がいいとか、いろんな事実があるじゃないですか。ドライアイスの技術もすごい発達してますしね。そういう情報も楽しく歌えたら本望ですね。
||世の中のことを歌ってきて、今はどう変わっていると感じますか。
嘉門 これほど目まぐるしく文明が進化する時代はおそらくないでしょう。鎖国していた江戸時代なんかはほぼ300年変わってないですからね。エレキテルや黒船に驚いたくらいでね。
映像に関しては1970年の大阪万博の時に提示された、未来はこうなるという形が想定内で進化してきていると思います。サウンドと通信に関してはこんなに変わるとは予測できなかったですね。車の運転が自動になるとも思ってなかったし。ガラケーからスマホに変わって、扱いきれずに人々が右往左往する姿がまた歌のテーマになります。
||「アホが見るブタのケツ」は今の子どもにも受けていますね。
嘉門 テーマが普遍的ですからね。文明が進化して、使うツールは変わっても、根本的な部分で人間は変わらないのでしょう。