電磁波とは、電界と磁界が互いに影響しあいながら空間を光と同じ速さで伝わっていくです。電界とは、電気の力、つまりプラスとマイナスの極性が同極どうしで反発し合い、異極どうしで引き合う力が働いている場所を指します。磁界とは、磁気の力、つまりN極とS極が同極どうしで反発し合い、異極どうしで引き合う力が働く場所を指します。電磁界とは、電界と磁界が組み合わされたもので、電磁波という波が伝わっている空間(場所)を指します。電磁波のうち、周波数が3THz以下のものは、マイクロ波を含めて電波とも呼ばれています。

 

 マイクロ波は、周波数が300MHzから300GHz(波長が1mから1mm)の電磁波のことで、レ-ダ-や衛星放送、テレビ、携帯電話、電子レンジなどに利用されています。

 マイクロ波などによる電磁界(electromagnetic fields EMFs)が生体に及ぼす影響・効果(EMF効果)については、電子レンジが示唆する熱効果が実感できるものの、いわゆる「マイクロ波症候群」や「電磁波過敏症」と呼ばれる、神経・精神医学的効果の実感がともなわない人が大多数と思います。

 

 私達は、日常的に様々な周波数のEMFに暴露されている筈ですが、被曝量が発症に至るほどではないことや、身体の異変にEMFが関係しているとの発想に至らないこと、身体の異変とEMFとの因果関係を考察する材料や情報に乏しいことなどが、実感がともなわない主な理由かもしれません。

 

 今回、翻訳を行ったPall博士の論文、”Pall (2016)Microwave frequency electromagnetic fields (EMFs) produce widespread neuropsychiatric effects including depression. Journal of Chemical Neuroanatomy, 75,43-51.”「和訳表題:マイクロ波の電磁界(EMF)は、うつ病を含めた広範な神経・精神医学的影響をもたらす」によれば、EMFの人間に対する神経・精神医学的効果に関する知見が英語で最初にレビュ-されたのは、1978年のBise(1978)のようです。

 

 Bise(1978)は、職業的に暴露される人々を対象とした研究において、マイクロ波EMFが頭痛、疲労、過敏性、めまい、食欲不振、眠気、発汗、集中力の困難、記憶喪失、うつ(病)、情緒不安定、皮膚描画症(ミミズ腫れ)、ふるえ、幻覚、不眠といった神経・精神医学的効果を発生させると結論付けました。

 

 こうした職業的暴露者の症状は、半世紀近くが経過した現代における携帯電話やその基地局、スマ-トメ-タ-等といった、Bise(1978)の当時に存在しなかった機材から放射されるEMFに暴露された人々の症状(原著、Table 4)と強い類似性を持っています。さらに、旧ソ連、西欧、米国という様々な地域で認められていますから、マイクロ波症候群は、時代や地域・文化の違いに関係なく認められる、機材のタイプに依存しない症候群であることがわかります

 

 本論では、EMF暴露と神経・精神医学的効果(≒マイクロ波症候群)との因果関係の検討に、①関連の強さ、②生物学的信頼性、③一貫性、④時系列、⑤用量-反応関係という5つの基準が用いられました。中でも②生物学的信頼性の基準が重視され、電位依存性カルシウムチャネル(VGCC)阻害剤を用いた研究、VGCCのサブユニットに関する遺伝子多型の研究、及び実験動物を用いた研究という、3つの生物学的観察結果が議論されました。

 

 その結果、マイクロ波以下の周波数のEMFが、電位依存性カルシウムチャネル(VGCC)を活性化させることを介して神経伝達物質や神経分泌ホルモンの過剰な放出を促し、広範囲にわたる神経・精神医学的効果を生み出すことが示唆され、同時に①③④⑤の因果関係がなぜ認められるのかの根拠も示されました。

 マイクロ波症候群は、様々なタイプや周波数のマイクロ波に暴露されることが原因で発症する神経・精神医学的障害であり、Levittら(2010)の声明どおり「精神的なものや仮病、超常現象の信じ込みに起因するものではありません。」

 

 我が国において、国民に対するマイクロ波攻撃が行われているのか?については、総務省は「電波で人体を攻撃できますか?」の質問に対して、「日常の生活空間で人体に影響を与える電波はありません。また、人体を攻撃する電波(機会や装置)はありません。

 

 としています。これは、本当でしょうか?

 

 集団スト-カ-における「電磁波攻撃」については、身体の異常の発生状況(症状)と、原因との因果関係を説明する必要があります。因果関係は上述した5つの基準を参考にしながら検討すると良いですが、生物学的信頼性については、本論に多く説明されていますしインターネットで多くの知見が検索できます。「身体の異常は、電磁波攻撃によるマイクロ波症候群である」という推定に向かって情報を整理する際には、日々の記録とアンカリングの知識が役立つと考えています。