1. マイクロ波症候群とは

 

 ”マイクロ波症候群”1,2) は、元来、電波塔の保安員やレーダーサイトの係員など、マイクロ波の周波数の電磁界に職業的に暴露される人々が訴えてきた、疲労感や頭痛、不眠症、失調(感覚障害)、過敏症、集中力の欠落などの神経症状の組み合わせを指します。しかし、マイクロ波と症状との関係性が明確でないなどの理由で懐疑的な意見も多く、長い間論争の種になっていました。

 

 その後、ワシントン州立大学のPall博士が関連する論文や公文書を幅広く調査し、それらの知見とマイクロ波が持つ既知のメカニズムとの間に整合性がとれているのかを検討した結果が2016年にChemical Neuroanatomy誌に掲載されました。3)

 タイトルを日本語に訳すと、「マイクロ波電磁場(EMF)は、うつ病を含む広範な精神・神経医学的影響をもたらす」となります。

 

 その論文の内容に従えば、マイクロ波症候群とは、「マイクロ波以下の周波数の電磁界に暴露された人々に認められる睡眠障害(含む、不眠症)、頭痛、鬱病(の状態)、疲労、知覚異常、集中力や注意力の機能障害、記憶障害、めまい、癇癪、食欲不振(含む、体重減少)、不安や焦燥感、吐き気、皮膚の炎症・ヒリヒリ感・みみず腫れ、及び脳波変動などの症候群」と定義できます。

 

 

2.マイクロ波症候群の発症メカニズム

 

 こうした症状は、マイクロ波以下の波長の電磁界(EMFs)が有している、電位依存性カルシウムチャネル(VGCC)を活性化させる働きを介して発現することがわかりました。3) VGCCは、神経細胞や筋細胞といった興奮性細胞の細胞膜に高密度に発現しているチャネル(細胞膜を貫通する通路)で、神経伝達物質や神経内分泌ホルモンの放出に普遍的な役割を果たしていることが明らかにされています。3)

 上のイラストが示すように、神経細胞は主に樹状突起と神経細胞体及び軸索で構成されています。

 

 樹状突起には特定の受容体が発現しており、そこに化学物質が結合すると、化学物質の情報が電気信号に変換されます。

 電気信号が軸索の先端、すなわちシナプスの前膜付近に達すると、そこに発現しているVGCC(上のイラストではCa2+チャネルと記載されています)が電位変化によって開き、神経細胞外から細胞内にカルシウムイオン(Ca2+)が流入します。

 

 するとシナプス小胞体がシナプス前膜に移動して融合し、小胞体の中に蓄えられていた化学伝達物質が放出されます。その化学伝達物質は、20nm程の間隙(シナプス間隙)の向かいにある別の神経細胞の樹状突起に発現した受容体と結合し、そこで再び電気信号に変換されます。

 

 最初の電気信号は、例えば嗅覚の神経細胞である嗅細胞の場合、鼻腔天蓋部の粘膜に露出した嗅繊毛(樹状突起の変形)に発現した嗅覚受容体に、においの分子(化学物質)が結合することを契機として発生します。4) この電気信号はVGCCに介在されながら次々と神経細胞に伝達され、他の神経系から伝達された情報などとミックスされることによって、においの質と量が決定されると考えられます。

 

 ところが、マイクロ波はVGCCの活性化を介して、におい分子が嗅覚受容体に結合しなくても(=においの元が無くても)においの電気信号を次の神経に伝えたり、実際の電気信号よりも強い信号として次の神経に伝えたりするために、幻臭や嗅覚過敏といった嗅覚障害5) を引き起こすかもしれません。また、VGCCの活性化によって嗅烈付近の筋肉が収縮し、嗅烈が閉塞すればにおい物質が嗅粘膜に届かなくなるので、筋肉が弛緩するまでの間はにおいを感じなくなるでしょう(嗅覚脱失)。 これが、嗅覚に関係するマイクロ波症候群が発症するメカニズムであると考えられます。

 

3.  マイクロ波症候群を人為的に発症させることは可能か?

 

 今回は説明を簡単にしますが、皮膚の表面からターゲットとする組織(神経や筋肉)に至るまでの距離は様々ですから、そこにマイクロ波を到達させるためには周波数の調整が必要です(表皮効果)。信号の強さ(神経伝達物質の量)を変化させるためにはマイクロ波の強さの調整が求められます。また、ターゲット組織以外の組織・器官への影響を抑制するには、指向性(ピント)の調整が必要です。

 すなわち、周波数と指向性と強さの3つを調整できる電磁波の照射装置があれば、マイクロ波症候群を人為的に発生させることが可能であると考えられます。ターゲット組織・器官にピンポイントで電磁波をあてて炎症を起こさせておけば、その後はピンポイントでなくても、その照射エリアにターゲットが入れば炎症が再発しやすいかもしれません。

 このような考え方が的を得ているとすれば、就寝中や執務中といったターゲット組織があまり動かない条件下で照射を開始することが得策です。私が住んでいるマンションでは、身体に異変が発生する際に上1002号室や横903号室などがざわめきますから、そこの住人や、1002号室に出入りしている302号室住人が電磁波を使った犯罪に関係していると見做しております。

 

4.参考文献

1) Hocking, B., 2001. Microwave sickness: a reappraisal. Occup. Med. 51, 66–69.

2) Johnson Liakouris, A.G., 1998. Radiofrequency (RF) sickness in the Lilienfeld study: an effect of modulated microwaves? Arch. Environ. Health 53, 226–228.

3) Martin L. Pall, 2016. Microwave frequency electromagnetic fields (EMFs) produce widespread neuropsychiatric effects including depression. Journal of Chemical Neuroanatomy 75, 43-51.

4) 東原和成 (2015) 嗅覚の匂い受容メカニズム. 日本耳鼻咽喉科学会会報,118(8), 1072-1075.

5) 三輪高喜他 (2017) 嗅覚障害診療ガイドライン. 日本鼻科学会誌, 56(4), 1-70.