【 パリの運転手(3) 】
ホテル・リッツから車に乗って事故死したダイアナ妃のことが思い浮かびます。あれはリッツの運転手が、ワインを飲んで泥酔していたにもかかわらず、パパラッチをふりきるために猛スピードで車を疾走させ、トンネルの壁に激突したのでした。
午後6時をまわっています。この運転手、ワインを飲んでいるだろうな。でも酔ってはいないよね? ……ん? こんなところで死にたくはない!
もしも生きて帰れたなら、「恐怖の慰謝料」を請求してやるからな。
彼はますますスピードをあげました。
いえ、慰謝料はもう請求しません。決して決して……。だから、お願い、無事に送りとどけてください。次第に不安がひろがり、泣きたくなります。
空港の出発ゲートに車をすべりこませたときは、全身の力がぬける思いでした。
「遺言状を作り、人生でお世話になった方々への御礼の手紙を書かないうちは、金輪際、パリなんかに足を踏みいれませんからね。あなたがたとえまた行きたいといっても」
帰りの機内でシートに身をあずけたとき、妻はまだ動悸がおさまらないといった感じで、そうつぶやきました。
加茂隆康の「文化のホワイエ」 次回をお楽しみに。
ホテル・リッツから車に乗って事故死したダイアナ妃のことが思い浮かびます。あれはリッツの運転手が、ワインを飲んで泥酔していたにもかかわらず、パパラッチをふりきるために猛スピードで車を疾走させ、トンネルの壁に激突したのでした。
午後6時をまわっています。この運転手、ワインを飲んでいるだろうな。でも酔ってはいないよね? ……ん? こんなところで死にたくはない!
もしも生きて帰れたなら、「恐怖の慰謝料」を請求してやるからな。
彼はますますスピードをあげました。
いえ、慰謝料はもう請求しません。決して決して……。だから、お願い、無事に送りとどけてください。次第に不安がひろがり、泣きたくなります。
空港の出発ゲートに車をすべりこませたときは、全身の力がぬける思いでした。
「遺言状を作り、人生でお世話になった方々への御礼の手紙を書かないうちは、金輪際、パリなんかに足を踏みいれませんからね。あなたがたとえまた行きたいといっても」
帰りの機内でシートに身をあずけたとき、妻はまだ動悸がおさまらないといった感じで、そうつぶやきました。
加茂隆康の「文化のホワイエ」 次回をお楽しみに。