母に守られなかった日 ― 私が見た家族の崩壊
第6話
小さな手にスプーンを持ち
おとさんに見せようとした
幼い私がおとさんから
教えられた遊び
小さな手の中で
スプーンが
少しだけ震える
一瞬にして熱くなり
曲がるスプーン
何度もやっていた遊び
でもその日だけは
曲がらなかった
おとさんの眉がひそむ
「曲がらないじゃないか」
低い声が空気を重くする
私は焦って
もっと強く念じた
お願い!動いて
でも、スプーンはただの鉄だ
冷たかった
おとさんの顔が
ゆっくりと怒りに変わっていく
「ちゃんとやれ!」
その瞬間
頬にヒリヒリと痛みが走った
空気が揺れて
世界がぼやけた
百日紅(サルスベリ) Photo by Rui
私は泣かなかった
代わりに
心の中でつぶやいた
怖いよ、苦しいよ
誰か助けて
その声に応えるように
空気の中に
金色の光がちらりと見えた
心配いらないよ
そう言われた気がした
私はスプーンをそっと置いた
そして、おとさんを見上げた
怒りに満ちたその瞳の奥に
ほんの一瞬
孤独の色を見た
おとさんを
可哀そうだと思った
そして置いたスプーンを
もう一度持つと
グニャリと曲がった
一瞬のことだった
「できるじゃないか!」
おとさんの顔がほころんだ
窓の外で
風が風鈴を鳴らした
その音がまるで
見守ってくれているように響いた
登場人物
父🟰おとさん
母🟰ちゃーちゃん
兄🟰にんに
祖母🟰ばちゃん
