のぶくんはようちえんにつくと、すぐにパンダぐみのへやにとびこみました。パンダぐみは年中(ねんちゅう)さんのへやです。ひろいへやはまだしーんとしています。どうやらのぶくんは一ばんについたみたい。
「やったー、いっちゃーく。……あ、ちがう。もうきてる」
それは女(おんな)の子(こ)です。みじかいくせげの子(こ)はしたをむいてなにかやっています。
「あ、ももかちゃんだ」
 のぶくんにはすぐわかりました。
 ももかちゃんはパンダぐみに、まいにち、だれよりもはやくきている子(こ)です。それは、ももかちゃんのママのおしごとがパンやさんだからです。
「おはよう。ぼくね、きょうはママにたのんで、とくべつはやくきたんだよっ」
 のぶくんはももかちゃんにそういうと、すぐにじぶんのロッカーにカバンとぼうしをほうりこみました。
 ももかちゃんはだまって、そんなのぶくんを見(み)ました。ももかちゃんは、いつもそんなにしゃべりません。ほいくえんでも一人(ひとり)でえをかいていることがおおいのです。
のぶくんはいそいで、へやのすみにあるブロック入(い)れのはこへいきました。ブロックをひとりじめできそうです。
「うふっ」
と、のぶくんはおもわずわらっちゃう。じつは、のぶくんにはだれもこないうちに、つくりたいおもちゃがあるのです。
 いつもだけど、あそぶときはブロックがぜんぜんたりません。いろもぜんぜんたりません。みんなであそぶからブロックは、すぐたりなくなってしまいます。でも、けさはだいじょうぶ。ブロックはじぶんのほしいぶんだけあるのです。
のぶくんは、ペタンとゆかにおとうさんすわりをすると、はこをのぞきこみました。いろいろなかたちやいろをしたブロックが、たくさんひかっています。一(いち)ばん大(おお)きい四(し)かくいブロックのきいろが、あたまみたいに見(み)えます。
「うん、これはあたまだ」
のぶくんはさっとブロックをとります。ほそながい青(あお)のブロックが、そのよこにあります。青(あお)はすきないろです。おなじいろのはんぶんまるいブロックもそのおくにかくれいます。それはまるで手(て)のひらみたいです。
「手(て)か……、これは」
ガチャガチャと、
ほかのブロックをよけてとり出(だ)すと、
「うーん。つぎはどうたい、どうたい……」
のぶくんは、はこの中(なか)にりょうてを入(い)れて、ガラガラとブロックをひっかきまわしました。そして青(あお)ときいろのブロックばかりつかむと、それをゆかにおいて、さっきのあたまと手(て)のところへいっしょにならべます。青(あお)ときいろのしましまもようのボディーです。
「おお、かっこいいー」
 のぶくんはだんだんわくわくしてきました。
ゆかの上(うえ)で、ブロックをくっつけたり、はなしたりしているうちに、やっと人(ひと)のかたちになってきました。
「ボロット、ボロットだ」
 ブツブツひとりごとをいうのぶくん。そして、ときどきつくりかけのブロックをじっとながめます。上(うえ)にもちあげて下(した)からも見(み)ます。 
ももかちゃんは、そんなのぶくんをちらっと見(み)たりしています。
「足(あし)はどれ…これか」
 足(あし)は右(みぎ)足(あし)も左(ひだり)足(あし)もくろの
ブロックを二(に)こづつくっつけてみ
ました。
「おっ、なんかつよそうじゃん
この足(あし)」
せも足(あし)をつけるとぐんと高(たか)くなりました。
「それからボロットのせなかに…これ」
 せなかには空(そら)をとぶ、ふんしゃそうちがいります。赤(あか)い三(さん)かくブロックを二(に)こくっつけると、まるでねんりょうがもえてるように見(み)えます。
「かんせーい」
のぶくんは、おなかにうんと力(ちから)を入(い)れて大(おお)きなこえでいいました。
「ボーン、キイーン」
のぶくんはいきなり、きかいみたいなこえをあげて立(た)ちあがると、そのままおもちゃをもって、ゆっくりクル、クルとまわりはじめました。おもちゃをにぎったのぶくんの右(みぎ)手(て)が、グーンとおもいきり上(うえ)にのびます。おもちゃのしましまのボディーも、うでも、足(あし)も、のぶくんの小(ちい)さい手(て)からはみ出(だ)しています。
「キイーン」
またきかいみたいなこえ。のぶくんはまわるのをやめるとその手(て)を上(あ)げたまま、ももかちゃんのまえをはしりだしました。いきおいよく、はしる、はしる、はしる。
「ボロットだ、ボロットだ」
さけぶのぶくんの手(て)の中(なか)で、おもちゃは空(そら)をとんでいます。とうとうへやの中(なか)をひとまわり。
「かっこいい」
 ももかちゃんの小(ちい)さいこえ。でも、のぶくんにはきこえません。
 パンダぐみのへやのそとが、だんだんにぎやかになってきて、そろそろおともだちがやってきました。
ゆうやくんとりょうくんが、ぼうしをぬぎながらへやに入(はい)ってきて、ふたりはすぐのぶくんをみつけました。
「のぶくーん、なにしてるんだよぉ」
 りょうくんがききます。
でも、のぶくんははしるのをやめません。おでこにあせが出(で)てきました。
「ぼく、つくったんだ。これこれ、ボロット」
のぶくんが、はしりながらそういうと、
「あっ。なんだ、ロボットか」
 せのたかいゆうやくんがいいました。
「ほんとだ、ロボットだ」
 メガネのりょうくんもそういって、はしっているのぶくんを見(み)ています。のぶくんはふたりのまえでやっととまって、バンとくつをゆかでふみならしました。 
「ちがうよ。これはボロットなのっ」
 のぶくんは、ムッとしてふたりをにらみつけました。
「はあ? ボロット。 ちがうだろ、これはロボットでしょ」
 りょうくんが、のぶくんの手(て)からとりあげてゆうやくんに見(み)せると
「ほんと。のぶくん、これ、ロボットじゃん」
 ゆうやくんもいいました。
「………」
 のぶくんは、だまってふたりをかわるがわるにらみます。のぶくんのかおがおこっています。そしていきなり、りょうくんからバッとロボットをとりかえし、そのままりょう手(て)をたかくあげたのぶくん。
「えいっ」
ロボットをゆかになげ
つけました。
バアーン
はなればなれになった
ブロックが、ゆかにと
びちりました。
「アーッ」
ゆうやくんとりょうくんはびっくり。ぽかんと口(くち)をあけて、こわれたロボットを見(み)ています。
ももかちゃんもかいているえを、もったままそばへはしってきました。
のぶくんのかおはまっか。そして目(め)からなみだが、ポロポロとおちてきました。
「ウワーン。ぼくのボロットのこと、ロボットっていうーよお。」
 そういってのぶくんは、大(おお)きいこえでなきだしたのです。
三(さん)にんは、こわれたロボットとのぶくんをかわるがわる見(み)ています。どうしていいのかわかりません。
「せんせい、よんでくるー」
 りょうくんがへやをとびだして、あとをゆうやくんがおっかけていきました。
「ウワーン、ウエエーン」
 のぶくんは、ますます大きいこえでないています。
 しばらくしてももかちゃんが、えをもったりょう手(て)を出(だ)しました。そろそろっとのぶくんの右(みぎ)手(て)をにぎると、その手(て)をぶらんぶらんとゆすりはじめたのです。
 なきながらのぶくんは、かた目(め)をちょっとだけあけてみると、ももかちゃんがえをわたそうとしています。ひろげたかみになにかかいてあるのです。
なきじゃっくりするのぶくんが、かたをゆすりながらそでで目(め)をこするとやっとえが見(み)えました。
「あ……?」
のぶくんが、りょう手(て)でえをつかむと、えはもっとよく見(み)えました。
まんなかに大(おお)きいブロックがかいてあります。きいろと青(あお)のふといしましまもようがめだっています。
「ボ…、ボロッ、ト」
かおには、目(め)も口(くち)もちゃんと
かいてあるのです。
「じょうず…だぁ」
赤(あか)いクレヨンで字(じ)も
かいてあります。
ぼろっとのえ
と、ひらがながよめました。
ももかちゃんは、のぶくんからえをそっととると、とくいそうにくせげのあたまの上(うえ)にのせました。そしてそのまま、にこにこしてのぶくんのまわりを、スキップしはじめたのです。 
「ボロット、ボロット」
そういうももかちゃん。
はねるたびに、えがひらひらします。えのボロットがそらをとんでるようです。
「エ、ハ、ハー」
ながめていたのぶくんの口(くち)からはんぶんなきごえと、はんぶんわらいごえがとびだしてきました。
ももかちゃんのスキップにあわせて、ボロットもひらひら、ひらひら。
見(み)ていたのぶくんもなんだかスキップしたくなって、ももかちゃんといっしょにはじめます。
「ボロット、ボロット」
 おともだちがびっくりして見(み)ているへやに
「ボロット、ボロット」
「ボロット、ボロット」
ももかちゃんとのぶくんのこえがたのしそうにひびいていました。
 
 
 
 
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