人生とは、テトリスのようなものなのかもしれない。




サナエはそう思った。


器用に携帯電話のボタンをいじくりながら、ブロックを回転させる。




ほしいタイミングで、ほしいものが降って来るとは限らない。


けれど、降って来たものは全て、甘んじて受け入れなければならない。




ピロッ。




サナエはブロックを積み、一段、また一段と列を消した。




人はなぜ、長い棒が入るように、ブロックを積んでしまうのだろう。


長い棒がこの先、タイミング良く降って来る保証なんて、どこにもないはずなのに。




運命の、長い棒。





ピロッ。




列が消える。消せば消すほど、落ちるブロックはその加速度を増す。


目まぐるしいほどの速さで落ちるブロック。


ブロックを思い通りのところにあてはめようとしても、その速さに操作が追いつかない。




サナエは、都心のスクランブル交差点を、不自然な速さで通り抜ける人の波を思った。


次から次へと押し寄せる処理。処理の処理。処理の波。






速さに、追いつけない。


波に、のまれていく。






ブロックは、あちらこちらに穴ぼこと出っ張りを作りながら積み上がってゆく。


気づけば画面の下半分は、いびつで奇妙なモニュメントによって支配されていた。




こんなはずじゃなかったのにな―――





サナエは、ボタンから手を離した。





ブロックが積み上がってゆく。画面のほぼ中央を裂くように、ブロックは落ちてゆく。


その中には、あの「運命」だったはずの長い棒も含まれていた。



ブロックは画面の上へと押し寄せる。

やがて溢れ、上まで積みあがった瞬間ディスプレイは灰色になり、「GAMEOVER」の文字が浮かび上がった。


サナエは、画面の中で「自殺」したのだ。





列を消す。


スコアが増える。


でも、そのスコアが何になる。






テトリスとは一体、何が目的なのだろう。






「サナエ」



どこかから呼ぶ声がする。



「サナエーーー」



その声は、どこか懐かしく、羽のようにやわらかい―――






「サナエー、あっ、コラ!こんなのいじっちゃダメじゃない!これお父さんの携帯電話なんだから!」


「ばぶーーばぶぶーーー」






サナエのテトリスは、まだ始まったばかりだ。