アナ「みなさまごきげんよう。おなじみ放送大学テレビ講座シリーズ、美容師講座です。さぁ今日もみっちり勉強して美容師免許の取得目指して頑張っていきましょう。先生をお呼びしましょう、飛田給美容師専門学校学長、ハサミ田ボブ郎先生です」


先生「こんにちは」


アナ「こんにちは。今日はどういったテーマでしょうか?」


先生「えー今日はですね、前回は『正しい切った毛の掃き方』について勉強しましたけれども、今回は『正しいお礼ハガキの書き方』についてやっていきたいと思います」


アナ「お礼ハガキ、というのはいったいどういったものでしょうか?」


先生「あのですね、たいてい新しい美容院なんかに行きますと、切った一ヶ月後かそのぐらいに家に手書きのハガキが届きますね。お客さんはそのメッセージを見て『あっ、また行こう』となるわけです。たくさんの指名を得るのにはこのハガキというのが非常にえー、重要ですね」


アナ「なるほど、では今日はそのハガキの書き方を」


先生「そうです、今の美容師は非常になっておりませんでですね、書きすぎてよく『盲腸のときには下の毛もケアいたします』だとかよくワケのわかんないこと書いてしまってですね、『もう行かない』だなんてそっぽ向かれてしまいますけれども、今日はそんなことのないように、実例を挙げて説明をしていきたいと思います」


アナ「はい。それでは例を見てみましょう」



<例  原宿の某美容室、Kさんの場合>


こんにちは!先日はご来店、誠にありがとうございました。

その後の髪の調子はいかがでしょうか?髪型の期限は一ヶ月半が目安です。

久々の短髪だとは思いますが、スタイリングには時間をかけてあげてください!

またのご来店をお待ちしています!




アナ「こちらですね、一見何も悪くなさそうですが・・・・」


先生「そうですね、これがいわゆる一般的な普通の美容師が書くようなことですね。しかしこの中に落とし穴がたくさん潜んでいましてですね、こんなハガキ一枚で最高裁まで行ったケースも私は知ってます」


アナ「そんなこともあるんですか」


先生「えーまずこれがいけません。この『こんにちは!』」


アナ「『こんにちは!』ですか?あ、わかりました。イメージとして軽々しすぎるとか・・・・」


先生「痒い!違います。まずこうして『こんにちは!』と始めてしまうと、夜に届いたときや朝に届いたときを考慮してませんですね。そのために日本には拝啓とか前略とかあるわけですからね。ですので最初に『こんにちは!』と始めたいときは、『こんにちは!(こんばんはか、おはようございますの場合もあるかも知れませんが)』とするのがいいと思います。さらには日本の郵便システムは優秀だと言われていますが、パキスタンとか中国の奥地のほうでは半年前に出された手紙がやっと届いて、『結婚しました』って書いてあるからお祝いに行ったらもう離婚してたとかいうケースがザラですね。つまり電子メールじゃないんですから、いつ届くかわからないので『こんにちは(こんばんはか、おはようございますの場合もあるかも知れませんが、もしかしたら明けましておめでとうございますかも知れませんね)』とするのがえー、一番親切でいいでしょうね。これがグローバルな美容師になるための第一歩です」


アナ「なるほど」


先生「ですから、書き出しはそれでいいとして、次です。『その後の髪の調子はいかがでしょうか?』とありますが、これもいけませんね」


アナ「どうしてですか?」


先生「いいですか、美容師というのは一ヶ月に何十人何百人ものヘアカットをするわけです。つまり一人一人の顔を記憶していられないので、どんな人か覚えていないわけです。しかもうすらハゲだろうがすだれハゲだろうがなんだろうが来るわけですから、『髪の調子はいかがでしょうか?』なんて言われてもいつも悪いよバカヤロウということになってしまうこともありうるわけです」


アナ「なるほどなるほど」


先生「えーですから、ここは誰にでもあるもの、例えば『その後の心臓の調子はいかがでしょうか?』と切り抜けましょう。こうすれば『あ、体のこと気を遣ってくれてるんだな』となりますし、万が一ペースメーカーをつけていらっしゃる方でも、結果として心配していることをアピールするのに問題ないわけです」


アナ「そうですね。やはりヘアスタイルだけでなく全身のね、心配も・・・」


先生「そうです、だから美容師といってもまぁ医者が診察しながら片手間に髪切ってるくらいの感覚が理想ですよね。さらに次この『髪型の期限』というのがえー、気になりますね。何かこう非常に一ヵ月半経ったらまた来い儲かるから・・・と言っているような商売のニオイがブリブリしますね。こんなものは省いてしまいましょう。しかし行数は稼ぎたいところですのでまぁ適当に『荒川すごかったですね』とでもしておけばいいと思います」


アナ「トリノすごかったですものね」


先生「もし期限について語りたければ『牛乳は一週間くらいが期限です』とでもしておけば、また体のケアということになってちょうどいいですよね。次の『久々の短髪ですが』というやつですが、客の顔と髪型なんかいちいち覚えていませんから、これがもし違う客のことだったら、もしくは住所を間違えてしまったら、もしくは本人より先におばあちゃんが読んだら、といったような様々な事故につながりかねませんね。一気に美容師としての信用を失う可能性がありますので非常に危険です。ここはおしなべて成立するような『久々の友引ですが』とか『久々の赤口ですが』とかしておけば問題ないですね。六日にいっぺんですからまぁ結構久々ですよね。しかも六日にいっぺんですから、全然違う日でも『三日前の友引かな?』とか『明日の話かな?』とか勝手に想像でやってくれるわけです」


アナ「そうですね。私も最近結構友引待ち遠しいです」


先生「あとはまあ『スタイリングには時間をかけてあげてください』というのもこれも人の好みですから、『なんで自分の髪なのにこんなこと言われなきゃいけないんだ』とかですね、『生存権の侵害だ』とか『軟禁だ』とか言われかねませんからここは一言、『スタイリングには時間をかけてあげてください!』のあとに『(注)あくまで私の考えです。個人の判断の範囲内で結構です。私は法令を遵守し、これに従います』と付け加えれば、もう安心といった感じですね。わざわざ簡易裁判所まで店長に来てもらうようなこともなくなります」


アナ「非常に安全になりますね。全体としては以上でしょうか?」


先生「そうですね、まだまだ気になるところはありますが、まあ言ってると日が暮れてしまいますので」


アナ「では例にあげた文章を正しく訂正してみましょう」



こんにちは!(こんばんはか、おはようございますの場合もあるかも知れませんが、もしかしたら明けましておめでとうございますかも知れませんね)

その後の心臓の調子はいかがでしょうか?荒川すごかったですね。

久々の友引ですが、スタイリングには時間をかけてあげてください!

(注)あくまで私の考えです。個人の判断の範囲内で結構です。私は法令を遵守し、これに従います。

またのご来店をお待ちしています!




アナ「やはり先生の訂正によって見違えるほどによくなりましたね」


先生「やはり世間ではカリスマ美容師だとかいって技術ばっかりで全然アフターケアをしないふんぞり返ってるバカがいますけどね、そうじゃない、お客様は散髪やパーマ、カラーと同時に美容師との会話を求めて来られるんだということを、えー忘れてはいけませんね。お客さまとの心の交流、これが地道ですけれどもえー、大事だと思います」


アナ「美容師を目指されている皆さん、わかりましたでしょうか?来週は『カット中盤における会話がない気まずさの埋め方』を再びハサミ田ボブ郎先生にご講義いただきたいと思います。先生、今日はどうもありがとうございました」


先生「ありがとうございました」