髪長私学2 第13話 | 人生は後半からがおもしろい‼

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人生の後半を自分らしく生きる。そして心身ともに健康で、満足いく人生を生きる。そんな自分の軌跡を綴るブログ。Since 9,January 2009

~第13話~ 黎明

 


今日も坂本の一日のルーティンワークが始まった。いつものように、チャイムを押して結が出迎える。

結 「先生、おはようございます」


坂本 「結、おはよう。今日も元気そうだね」

 



結 「はい、元気ですよ」

坂本 「今日は結に連絡することがあるんだ。リビングで話すよ」

結 「先生、何だか朝のホームルームみたい」

そう言って、結は笑った。そして飲みかけだったミルクティーのマグカップを手に持って椅子に座った。

 



坂本 「来週早々にも京都女学院という学校に行くんだ。結が通える学校かどうかを確かめて来るよ」

結 「学校に行くんですか? そこはどんな学校なの?」

坂本 「名前の通り、京都にある女子校なんだけど、生徒たち全員に共通する特徴があるんだ」

結 「えっ、共通する特徴?」

坂本 「そうなんだ。それが、生徒全員がとても長い髪をしているそうなんだよ」

結 「えーっ、本当? そんな学校があるの? 信じられない!」

坂本 「そうだろう。でも、それが本当らしいんだ。その女子校は中学の校長先生に紹介してもらったんだ。校長先生が京都女学院の理事長さんと親しい間柄らしくて」

結 「そうなの。何か興味あるなあ。クラスのみんながロングヘアーなら、私がそのクラスに入っても特別な感じじゃないもんね」

坂本 「そうだなあ。だから、結のために、しっかり見て来るからね」

唯「はい、お願いします。先生、その京都女学院という学校は私立なんですか?」

坂本 「そうだ。私立の女子校だよ」

 



結 「そう、私立なのか・・・」

坂本 「どうしたんだ?」

結 「うん・・・。ウチは母子家庭だから、私立は厳しそう。ましてや中学からなんて」

坂本 「そうか。まあでも、学費面はさておいて、どんなところなのか見て来るよ」

結 「もし、私にピッタリの学校だったら、入学したいなあ」

 



坂本 「そうだな。この見学も1日では終わらないそうなんだ。まずは3日間、じっくりと見て、話を聞いて学校のことを理解して欲しいそうだ」

結 「へえー、そうなの!」

坂本 「先方には、結のことも話しているんだよ。実際に見学して、良ければ結に入学を勧めることになるからね。だから、3日間も時間をかけて理解を得たいというのが学校側の考えだと思うよ」

結 「私のために・・・先生、本当にありがとうございます」

坂本 「結には、楽しい学校生活を送って欲しいからね。それはそうと、ちょっとこっちに座ってよ」

坂本はそう言って、結を自分が座っている前に来るように手招きした。

結 「どうしたの、先生?」

 


  
結は坂本に促された通り、床に引きずっていた長い黒髪を手に持ちながら坂本の前に座った。坂本は結が手に持っていた長い黒髪をそっと両手で持った。

結 「先生?」

艶やかな結の黒髪が、LEDの光を反射して輝いている。坂本は手に持った黒髪の感触を覚えておこうとしていた。

結 「ねえ、先生。本当にどうしたの? 今日の先生は何だか変」

結は笑いながら坂本の顔を下から覗き込んだ。

坂本 「こうして結の長い黒髪のしなやかさを感じるのも、あと少しの間かなあと思ってね」

 



神妙な顔つきで言った。

結 「えっ、どういうこと?」

坂本 「もし、もしだよ。結が京都女学院に通うことになったら、こんなふうに会うこともなくなるからさ」

 



結 「それは嫌だ! 先生と離れるのは絶対に嫌!」

坂本 「そんなことを言っても、学校へ行って、たくさん友達を作らないと」

結 「それもそうだけど、私が学校に通うようになったら、本当に先生と会えなくなるの? もう、先生はウチには来ないの?」

坂本 「それは、どうなるか分からないよ」

 



結 「先生と会えなくなるのは、絶対に嫌!」
 
結にとって、坂本は自分を救ってくれた恩人であり、良き理解者でもあった。だから、結は今のままでもいいと思った。坂本は結の長い黒髪を繰り返し優しく撫でながら言った。

坂本 「この長い黒髪を切らないという約束をしたよね」

 



結は大きく頷いた。

坂本 「切らないだけでなく、髪を染めないで欲しいんだ」

結 「先生、私はこの髪を切るつもりも染めるつもりもありませんから」

坂本 「そうか。それを聞いて安心したよ。そんなことをすると、髪が可哀想だからね」

結 「先生は髪を染めている人は嫌い?」

坂本 「あまり好きではないなあ。髪にペンキを塗って、息ができないようにしているようなイメージなんだ。あんなことをしたら、輝きを失って、髪が死んでしまうよ」

結は悲しそうな表情で聞いていた。

 



結 「先生、安心して。私、自分でも気に入ってるの。ツヤツヤでしなやかな髪だから、このままの綺麗な髪で、これからもずーっといるから」

坂本 「ありがとう、結。あっ、そうだ。結の長い黒髪をブラッシングさせてくれる?」

 



結 「いいけど、先生・・・授業は?」

坂本 「30分後から始めよう!」

 



そう言って、結の長い黒髪を丁寧にコームを入れた。髪先からゆっくりと梳かしていく。これまでに何度も繰り返してきたので、手慣れたものである。愛娘の長い黒髪を愛しく想う父親のような心境になっていた。

 



坂本に髪を預けている結も、もしかしたら個人授業も近い日に終わりが来るのではないかと思い始めていた。いつまでもこんな日が続いて欲しいと思いながら、二人は濃密な時間を過ごすのであった。

 




いよいよその日が来た。京都女学院を訪問する日である。理事長との約束は10時30分。地下駅になっているJR伏見駅を降りて地上に出る。そこから徒歩で15分のところに学校がある。坂本は駅から学校までの上り坂をてくてく歩いた。そして京都女学院の本部に到着した。

自動扉が開くと、広いエントランススペースが視界に広がった。いくつものテーブル席がパーテーションで仕切られており、ここで打ち合わせもできるようになっていた。坂本は前方にある受付に向かった。

坂本 「おはようございます。私、坂本と申します。本日10時30に澤田理事長とのお約束で参りました」

受付の女性職員が笑顔で対応した。

 



職員 「坂本様ですね。お待ちしておりました。少々お待ち下さい」

その女性職員は電話で坂本の来訪を伝えているようだ。それが終わると、事務所から出てきた。

職員 「理事長室までご案内します」

 



そう言って、女性職員は坂本の前に出て歩き始めた。次の瞬間、まるで別世界の光景が目の前に広がった。えーっ、ひ、ひ、引きずっている! うわーっ、何て長いんだ‼

坂本の驚きも当然だった。長くてしなやかな黒髪が足元まで流れ落ち、さらに床の上を長々と引きずっていたからである。まるで非日常のあり得ない光景であった。女性職員は坂本の驚いた様子を気にすることなく、先を歩いて行く。

 



坂本は床を引きずる長い黒髪を見ながら、彼女の後を歩いた。エレベーターの前でボタンを押した女性職員は、階数の表示を見上げていた。エレベーターが1階に降りて来るまで、二人は無言で立っていた。その沈黙を坂本が破った。

坂本 「あの・・・」

その声に女性職員は後ろを振り返って、声の主を見た。

坂本 「あの・・・髪が」

そこまで言うと、微笑みながら女性職員が答えた。

職員 「お越しになった皆様が、まずお聞きになるのが、この髪のことなんです。普段は髪を引きずりながら歩く女性をご覧になることはありませんからね」

坂本 「いやー、驚きました」

職員 「もし、不快に思われたのなら申し訳ございません。お許し下さい」

坂本 「いえいえ、とんでもないです。不快だなんて。とても長い髪なので感動してますよ」

職員 「ありがとうございます」

エレベーターが1階に降りて来たので、女性職員は右手で床を引きずる黒髪を持ち上げ、ゆっくりと乗り込んだ。坂本はその後から乗り込み、エレベーターの奥に立った。女性職員がボタンを押そうとして持っていた長い黒髪を離すと、バサっと床に落ちて広がった。

 



何という素敵な光景なんだろうか。坂本の目はその長いしなやかな黒髪に釘付けとなった。5階に到着して、ドアが開いた。女性職員に促されて、坂本は先にエレベーターを降りた。そして後から降りた女性職員が、坂本を先導する。

職員 「この先が理事長室になります」

 



坂本 「はい。あの・・・」

坂本はその女性職員に質問してみたかった。

坂本 「いつも髪を引きずったまま、お仕事をされているのですか?」

職員 「ええ、そうなんです。これは規則なので」

坂本 「規則?」

職員 「はい、京都女学院にいる時は、いくら長くても髪を結んだりまとめたりすることは禁じられていまして」

 


坂本 「へぇーっ、そうなんですか?」

職員 「はい。この規則は私たち職員だけではなく、この学校の生徒たちも同じなんです」

坂本 「そうでしたか」

職員 「まだまだ色々と疑問に思われることやご質問されたいことがたくさん出てくると思いますけど、じっくりとこの学校を見学なさって下さい」

坂本 「ありがとうございます」

女性職員と話しながら歩いていると、通路の一番奥にある理事長室に着いた。坂本はドアをノックした。そして理事長室に一歩踏み入れた時に、またしても驚くような光景が待っていた。

 


 

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感謝 by Ryuta