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中絶の記録

30歳バツイチ子ナシ独身女。不倫中の彼との間にできた子どもの中絶の記録。

病院に着き、写真を受け取るだけなのですぐ済むと思い、

彼には車を停めておいてもらい私一人で向かった。

 

受付に事情を話すと、産婦人科の窓口に行くように言われた。

産婦人科の窓口で同じように事情を伝え、近くのソファに腰掛ける。

 

忙しいのか、看護師が目の前を行ったり来たりするものの

なかなか声を掛けられなかった。

 

その間に、つい1週間前の事を思い出していた。

ここに来て、初めて自分のお腹の中の命を見せてもらったこと。

そして聞かせてもらった命の鼓動。

 

たった1週間前には、いや、今朝までは、まだ私のお腹の中で生きていたのだ。

でも今はもう、いない。

 

悲しみの感情がようやくだんだんと生まれてきて、ハンカチで目を覆った。

 

しばらくして看護師が近づいてきた。

 

1週間前に対応してくれた人とは違ったが、

私に関する情報共有はされているようだった。

 

看「画像はこれね。あれから、どうしたの?」

 

私「今日、紹介して頂いた別の病院で手術をしてきました…。」

 

看「そっか…。」

 

最後に、また会いましょう、というようなことを言われたと思う。

 

今度は、中絶ではなく、産むときに、という意味だろう。

そういう未来であればいいな、と思いながら産婦人科を後にした。

 

彼に「終わったよ」とLINEを入れ、病院の外に向かう。

 

病院の入口まで来てくれていた彼の車に乗り込んだ。

私が涙目になっていたので、彼は「なんで今?(^^; 」と少し笑った。

 

私「ここに来たら、1週間前には、まだお腹の中にいたんだよなって思って…。」

 

彼「そうか。…とりあえず街に出る前にガソリンスタンドで給油するよ?」

 

走り出した車の中、私一人の中でだんだんと感情が溢れだしてくる。

 

最初は咽び泣きだったが、押し寄せる感情に止まらなくなり、

ハンカチで顔を覆って「うわぁーー!」と声をあげて泣いた。

 

「わぁーーーー! うわぁーーーー! あぁーーーー!」

 

隣で運転していた彼は、見かねて途中の適当な駐車場に車を停めてくれた。

 

止めたくても止まらなかった。

こんなに声をあげて泣いたのはいつ振りだろうか。

 

泣いている間、彼に何か声を掛けられたはずだが、覚えていない。

自分が「もうあの子はこの世のどこにもいないんだよー!」

と叫んだのは覚えている。

 

しばらく泣くと、落ち着いてきた。

 

私「…泣けてよかった。」

 

彼「よかったと言っていいんか分からんけど…。」

 

私「よかったよ。自分が何も感じない人間じゃなくてよかった…。」

 

手術後、全く涙が出ない自分が気持ち悪かったが、

泣けたことで自分に人の心が残っていることに安心した。

 

また走り出した車の中で、彼に

「これから、頑張って生きようね。」と言った。

 

空から見守ってくれるであろうあの子に恥じないように、

いつかあの世であの子に会えたときにちゃんと顔向けできるように。