高速道路を過ぎ去る時間の数々。
通り過ぎるたくさんの顔は沈黙のマーメイド。
水底に沈む寝台列車は眠りの迷路。
ふわふわと漂う妖精は建築会社の社員のよう。
小さな音でトントンと背中を叩く。
時間の記憶。
記憶されたタイムレコーダー。
壊れた時計は時折、小さな胸を叩く。
早く扉を開けなさいと。
運を運転する。
運は運転を好むから、進めば進むほど記憶の回路を回していく。
あの時の記憶もあの忘れられた思い出も
マーメイドが水際に顔を出すように
底知れない不安を抱えながらも新しい世界へ飛び出す。
自分の足で歩くんだと。
タイトスカートを履いた女の子。
しなやかな身体を振り撒いて美人を誘う。
心置きなく笑ってくれと。
深深と降る雪に言葉をなくし、只、掌を差し伸べて
運の入り口を探る。
運の入り口は針の穴より小さいから
しっかり覗き込んで
脳の中を紛れ込んで
粉々に砕け散ったと思わせて
実は目の前にあるんだと気付かせる。
タイトスカートもマーメイドも
寒いことすら忘れて必死に探し回る。
運の入り口を。
廻る廻るメリーゴーランド。
断面に刻まれた記憶を小さな糸として
釣竿に下げて水の中から引き上げる。
見つかった宝石は孤独を通り越してサイレンを鳴らす。
『 ほら、これが運なんだ。秘密の迷路なんだ 』
偽りなく偽りを演じる自分に大きな拍手を。
あなたが見た幻は幻ではない。
ほんとうのことなんだと伝えて欲しい。
この私に。
そして未来のあなたに。
運回帰。
乱れた羽衣は天に帰らない。
きれいだからこそ真の羽衣であると。
まだるっこしい夜に高速道路で呟く人たちの心の声。
拾い上げて運とする。