上方落語界には草野球チームが存在します。


その名も、

「モッチャリーズ」


若手からベテラン、そして落語家以外の方にも参加していただきなんとか人数を揃えて試合を行います。


私は小4から中3まで、なぜか巨人の仁志敏久に憧れて野球をしていたこともあり去年からメンバーに入れていただきました。



寒い時期を除いた、ほぼ毎週月曜日の朝9時から試合は始まります。

朝9時。

ということは8時前に起きておかなければいけません。

一般的には当たり前のことかもしれませんが、

落語家による8時前起床はとんでもなく早起きです。

世間一般でいう4時半起床ぐらいです。

一大事なのです。


これが仕事ならともかく、草野球です。


朝一の飛行機で北海道に仕事に行くのではないのです。

草野球です。


前日の夜

"明日は野球やから早よ寝な"

という入門前では考えられない感情が湧いてくるのです。


それでも集まったメンバーは黙々と準備体操を始め、黙々とキャッチボールをして試合に備えます。

落語の出番前、楽屋でわいわい騒いでる先輩方は草野球の試合前になると目つきが違います。

楽屋でお菓子をつまみながらわいわい話す先輩方はそこにはいません。


そして試合が始まります。


参加するようになって最近気づいたことがあるのです。


それは

"草野球に安心できるアウトなどない"

ということです。


プロの試合であれば、

内野ゴロ、高いフライが上がれば、アウトにしてくれるだろうと安心して見ることができます。

しかし草野球は違います。

全ての打球がエラーと隣合わせなのです。


なので例えばフライをキャッチすればプロの世界では考えられないような言葉をかけられるのです。


「ようやった!」


普通なら、9回2アウト負けてる場面で2塁に盗塁した時に初めてかけられる言葉です。


草野球は違います。

フライをキャッチすればもうヒーローなのです。


先輩師匠方がこれでもかと褒めてくれるのです。

落語会では考えられない光景です。


が、しかし当然エラーをしてしまうこともあります。

ここでも普段の落語会では考えられない光景があるのです。

それは、"先輩には敬語を使う"

という絶対的なルールが、ある魔法の言葉を使うことによってその刹那、どこかへ消えてしまうのです。


その魔法の言葉。それは


「どんまい!どんまい!」


です。


どさくさに紛れて芸歴が何十年もの先輩に

「どんまい!どんまい!」

と言えてしまうのです。



もし落語会で、例えば少し噛んでしまった先輩に

「どんまい!どんまい!」

とでも言おうもんならこの世界から消えてしまうかもしれません。


しかし草野球は違います。


「どんまい!どんまい!次、次〜!」


草野球マジック。


そこにはひとり芸である落語では味わえない、

チームプレーという空間が広がっているのです。


勿論勝つに越したことはないですが、例え負けてもなんかもうみんなでわいわい野球をしている時間が格別なのです。


審判さんも、

「今の回何点入ったっけ?」

と選手に聞くぐらいです。

ゆるいんです。


趣味もなく、ストレス発散方法もない私にとっては心をリフレッシュできる有難い時間です。

 

メンバーの先輩、参加してくださる落語以外の方々も優しい方ばかりです。


どうか皆さん、月曜の朝にどこかの公園で草野球をしているのを目にされたらそれはもしかしたらモッチャリーズかもしれません。


ただスコアボードは見ないでくださいね。


なんでプレー中の画像ちゃうねん。