よく噛むと 神経伝達物質セロトニンが分泌されて 気分がよくなる ?

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

セロトニンとは、どのような働きをする物質なのでしょうか?

セロトニンは、脳幹にあるセロトニン神経から分泌される神経伝達物質の一種です。セロトニン神経の活動が活発であれば、セロトニンの分泌が多くなり、弱くなれば分泌が少なくなります。

セロトニンの分泌が減少すると、不安になったり、落ち込みやすくなったりするほか、目覚めも悪くなり、集中力も低下します。また、セロトニンは眠気を引き起こすメラトニンのもとになるので、セロトニンが不足するとよく眠れないといった変化も現れます。

セロトニンが増えると、目覚めがよくなり、頭がスッキリしてポジティブな気分で過ごせるようになりますし、表情も明るくなります。

セロトニン減少の原因には、ストレスや睡眠不足、昼夜逆転などの不規則な生活があります。メンタリティを高めてストレスに対抗するにはセロトニンが必須ですが、生活環境や職場環境を変えるのは容易なことではないでしょう。しかし、セロトニン不足が続くと「うつ状態」「うつ病」にもつながるので、早い段階での対処が望まれます。

 

その予防法の一つが、「噛むこと」なのでしょうか?

日常生活の中でセロトニンの分泌を促す方法の一つとして、「噛むこと」があります。一定のリズムで同じ動きを繰りかえす運動を「リズム運動」といい、セロトニン神経はこのような運動で活性化されることがわかっています。そして、リズム運動の中でも最も手軽なのが、咀嚼つまり噛むことなのです。

私たちが行った20分間ガムを噛む実験でも、被験者のセロトニンの分泌が上昇し、緊張・不安および抑うつといったネガティブな気分尺度が改善されました。

普段の食事で、豆類や根菜、生野菜、キノコなど、ある程度歯ごたえのある硬さの食材を選び、しっかりと噛んでいることを意識しながら食べるだけでも、セロトニンの分泌に効果的です。なんとなく無意識に噛んで食べてしまっては、「咀嚼のリズム運動」にはならないので、意識して噛むことが大切です。

 

噛めば噛むほどセロトニンが分泌される、ということですか?

セロトニン分泌に効果的なリズム運動には、「噛むこと」以外に「呼吸」と「歩行」があります。

具体的にはウォーキングや歌うことなどがそれにあたります。

どのリズム運動でも、効果的な継続時間があり、

運動を始めて5分くらいからセロトニン濃度が高まり、

20〜30分でピークに達し、

その状態は2時間ほど続きます。

逆にやりすぎて疲れてしまうと、かえってセロトニン神経の機能は低下します。

また、嫌々やっても、効果は期待できません。

毎日できることを5〜30分間行うことが

セロトニン活性のコツといえます。

 

 

噛むことは、毎日 必ずする運動です。

朝食をしっかり噛んで食べて、セロトニン神経を活性化して一日を始める。

ピークは2時間ですから昼前にはセロトニン活性が弱まってくるので、昼食で噛んでまた高める、

そして夕食……、というように、

3回の食事でしっかり噛めば、覚醒時のセロトニン神経の活性をほぼ維持できることになります。

 

 

 

セロトニンの分泌を高めるための食材は、歯ごたえのあるものなら?

セロトニンの材料となるのが、たんぱく質に多く含まれているトリプトファンという必須アミノ酸です。肉・魚・大豆・乳製品にたんぱく質が多く含まれますから、これらの食材をとることでトリプトファンを摂取することができます。

つまり、特別な食材ではなく、普段の食事をよく噛んで食べればいいわけです。

咀嚼は消化活動をサポートするものですが、これからは、「脳のエクササイズになる」ということも意識しながら、よく噛んで食べることを心がけてください。

 

また、セロトニンの生成には、日光を浴びることも大切です。

毎日1度は外に出て、日の光を浴びるようにしましょう。

セロトニンは、実はとても簡単なことで増やすことができます。

よく噛むことも日光を浴びることも毎日の習慣にしてしまえば、

無理なく続けることができるでしょう。

 

有田秀穂(ありた・ひでほ)先生 東邦大学教授