黄色い花

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

京介との語らいも

大輔との語らいも

忍は

一つも隠さず壱嶋に話をした

 

 

 

不思議な優しさが漂う

京介は

忍の心を解きほぐしてくれた

 

 

 

立ち姿が壱嶋に似た大輔は

忍に勇気を与えてくれた

 

 

 

壱嶋は

忍の話を

静かに聞いた

 

 

溢れる想いは

尽きることなく

忍の口から語られた

 

 

 

 

忍が贈った

夫婦茶碗は

壱嶋を喜ばせた

 

 

 

 

夜が深まり

忍は

沈黙することが多くなった

 

 

 

まだ全てを話せてない・・・

 

 

自分の過去を

ちゃんと話さなきゃ・・・・

 

 

しかし

忍は躊躇った・・・・

 

 

 

 

壱嶋の眼差しは

いつもより強く

忍は

慌てて目を伏せた

 

 

「忍・・・・」

 

 

「あ、俺・・・・戸締りしてくる」

 

 

 

 

手首を掴まれ

椅子に座る

壱嶋に引き寄せられた

 

 

 

「あ・・・・」

 

 

 

手首から壱嶋の熱が

身体を駆け巡り

間近に

壱嶋の吐息を感じた

 

 

「壱嶋さん・・・・」

 

 

 

忍は

壱嶋の膝に

片膝を乗せた

 

 

 

壱嶋の手が

首筋に触れた

 

 

 

「あっ・・・」

 

甘い声が

忍の口から漏れ零れた

 

 

壱嶋の手を取り

自分の頬に押し当てた

 

 

 

忍の身体に

言い得ぬ甘い痺れが走った

 

 

 

目を細め

熱を帯びた瞳は

壱嶋の理性を

奪う

 

 

寝巻の帯の細腰に手をやり

もっと引き寄せた

 

 

倒れ込むように

壱嶋の身体に委ね

抱き付いた

 

 

 

その唇は

壱嶋を求め

薄っすらと開いた

 

 

甘い口付けは

忍の唇を何度も啄んだ・・・

 

 

「はぁっ・・・」

 

吐息は色めき

忍は

壱嶋の首に細い腕を巻き付けた

 

 

 

露わになった腕が

壱嶋を誘う・・・・

 

 

 

首筋に唇を落とし

軽く吸うと

忍は身体をしならせた

 

 

 

壱嶋の膝に座り

その目を蕩けさせる

 

 

寝巻の肩から

その手を滑らせた

 

 

ピクリと反応する忍は

その先を求め

身をよじった

 

 

 

「はぁ・・・壱嶋さん・・・・」

 

 

 

 

幼さを消し

本来の忍が姿を現した

 

 

 

~惑わされるな~

 

 

源真の言葉が

壱嶋の脳裏に響き

僅かな理性で

唇を噛み締め我に返る

 

 

 

~今しかない・・・・忍に問うには・・・~

 

 

 

「忍・・・忍・・・」

 

 

妖しげな瞳の色で

壱嶋に甘い視線を送る

 

 

「忍・・・・」

 

 

 

「壱嶋さん?・・・・」

 

 

壱嶋の視線に

忍は

大人びた顔で反応する

 

 

 

「忍・・・話してくれないか」

 

 

 

「な、何?」

 

 

 

「お前の過去を・・・その古傷の過去を・・・」

 

 

「!!・・・」

 

 

驚きの表情も

艶を含んだ

大人びたものだった

 

 

 

戸惑う忍は

自分を隠せず

その瞳を曇らせた・・・

 

 

 

「壱嶋さん・・・・・」

 

 

 

身体の中の灯火は

消えぬまま

壱嶋から離れ

忍は

その場に立ち上がった

 

 

乱れた寝巻のまま

忍は

哀しみを湛え

縁側へ続く戸を開けた

 

 

 

 

 

 

月明りが忍の身体を

映し出した・・・

 

 

「お前の全てを知らなければ

先へは進めない」

 

 

「・・・分かってる・・・・壱嶋さん・・・

俺・・・・」

 

 

 

 

 

躊躇う自分に

壱嶋は

話す機会を与えてくれた・・・

 

 

 

 

戸にもたれ

月を見上げながら

忍は

遠く封印した過去を語り出した

 

 

 

「ねえ・・・壱嶋さん・・・・」

 

寝巻の裾から覗く

白い素足が

壱嶋の目には

眩しかった・・・

 

 

 

言葉を選び

押し黙る忍を

待ち続けた・・

 

「・・・仲がとっても悪い二人が居たんだ・・・

顔を合わすことも

言葉を掛け合うことも出来ないほど・・・」

 

 

遠くを懐かしむように

目を細めて

話を続けた

 

 

 

「俺・・・そんな事も知らずに、二人と仲良くなって

それが知れて

・・・喧嘩になって・・・・」

 

 

「刃傷沙汰になったのか?」

 

 

 

「・・・・・・互いに殺したいほど嫌っていたなんて・・・

俺・・・知らなくて・・・・」

 

 

 

「お前は、誰に刺されたんだ?」

 

 

 

「二人を止めようと間に入って・・・・刺された・・・

みんなを巻き込んで・・・

乱闘になって・・・・」

 

 

壱嶋は

ハッとした

 

 

過去の事件を調べた時

繁華街などで暴力的な行為を常習する

二つの不良団 の乱闘事件が記録されていた

 

 

 

 

 

死傷者も多数出た大きなものだったが

その中に

忍の名はなかった

 

 

 

 

「・・・忍、お前が・・・・・」

 

 

 

「その町の大きな集団の長だった人達だったんだ・・・

二人共、俺には、良くしてくれて・・・」

 

 

 

~知らずに相手の懐に入って惑わす・・・~

 

 

源真の声が

再び木霊した

 

 

 

「あの事件は、お前が引き金になったと言うのか」

 

 

 

「壱嶋さん・・・知ってるの?」

 

 

 

 

対立する不良たちの集団が

小競り合いから

殺傷事件に発展したと書かれていた

 

 

 

 

年端も行かぬ忍が

事の発端だと

誰もが口を噤んだのだろう

 

 

 

 

「二人に・・・・愛してるって言われたんだ」

 

 

 

「!・・・・」

 

 

 

「俺・・・その意味が分からず

俺もって・・・二人に返してた・・・・」

 

 

 

 

~忍は、俺のものだ!!~

~てめぇ!ふざけるな!!忍は、俺を愛してるんだ!~

 

 

 

「俺・・・今なら・・・分かるよ・・・・

愛してるって意味・・・・」

 

 

 

沈痛な面持ちで

忍は

答えた

 

 

「みんなに恨まれた・・・・

みんなの目が・・・冷たく俺を見るんだ・・・・」

 

 

 

 

~お前のせいだ!!~

~お前は、裏切り者だ!!~

 

 

 

記録には

数人の死者が出ていた

 

 

 

「忍・・・その二人は・・・・」

 

 

 

「あねさんって皆に呼ばれてる人が

俺をかくまって

面倒を見てくれた・・・」

 

 

 

「・・・・」

 

 

「二人共死んだって、その時知らされた・・・」

 

 

忍は

その時を思い出すのか

悲痛なほど

顔を歪めた

 

 

 

「そうか・・・」

 

 

 

「あねさんは、凄く怒っていて・・・・

治ったら、二度と顔を見せるなって・・・・」

 

 

「忍・・・・・」

 

 

「ずっと可愛がってもらっていたのに・・・

俺が・・・悪いんだ・・・」

 

 

無知だった忍は

「愛する」意味も分からず

二人に懐いた

 

 

 

そして

忍を奪い合い

大勢を巻き込み

互いの刃に倒れたのか・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「忍のせいじゃない・・・」

 

 

忍は

首を振って

壱嶋の慰めを否定した

 

 

 

「俺のせい・・・・二人共死んじゃった・・・・」

 

 

 

「・・・・・」

 

 

 

 

「・・その後・・・

一人で生きるって決めたんだ」

 

 

 

「・・・人の目から逃れて生きる道を

選んだのか」

 

 

 

「そう・・・気軽だった

俺一人だから・・・誰も傷付かなかったし・・・」

 

一人で生きることの

寂しさを

どんな想いで埋めていたのだろうか・・・

 

 

 

初めて出会った

薄汚れた顔の忍を

思い出した

 

 

山の中で

たくさんの葉に包まって

丸くなって眠る忍が浮かんだ

 

 

 

壱嶋は

胸が締め付けられた

 


 

 

 

「忍・・・もう自分を責めるな」

 

 

 

また首を大きく振った

 

 

 

「俺に関わると、みんなおかしくなる・・・

俺のせい・・・

俺・・・どうしたらいいの?・・・」

 

 

忍は

初めて感情を露わにし

その場に

しゃがみ込んで

泣き出した

 

 

 

「忍・・・」

 

 

壱嶋は

側に行き

忍を優しく抱き締めた・・・

 

 

「良く話してくれた・・・忍・・・」

 

 

「壱嶋さん!俺!壱嶋さんの側に居たい!」

 

 

 

「分かってる」

 

 

「でも俺・・・きっとまた迷惑掛ける!」

 

 

泣きじゃくり

肩を震わす忍の髪の毛を

優しく撫でた

 

 

「忍・・・私に全てを任せてくれないか」

 

 

「えっ?・・・」

 

 

涙に濡れた瞳で

壱嶋の顔を見た

 

 

「俺・・・何をすればいいの?」

 

 

 

「私と共に

幸せになろう・・・」

 

 

「幸せに?・・・・」

 

 

「人の目を気にせず

いろいろな人と出会い

満ち足りた日々を送るんだ」

 

「そんな事・・・出来るの?」

 

 

「私が信じられないか?」

 

 

「ううん・・・」

 

 

「この世で一番忍を愛してるのは

私だ・・・」

 

 

「壱嶋さん!俺も!」

 

初めて忍は

微笑んだ・・・

 

 

 

その笑顔は

普段の

幼さに戻っていた

 

 

 

過酷な体験から

幼いまま時を止め

生きてきたのだろう

 

 

 

時折見せる年相応の顔・・

どれもが忍なのだろう

 

 

 

不均衡な忍の表情は

まだ成長過程だと

壱嶋は

気付いた

 

 

 

 

「忍・・・私を

信じてくれないか」

 

 

「信じる・・・ずっと壱嶋さんを信じてるよ」

 

 

「そうか・・・そうだな・・・」

 

 

二人は

顔を見合わせ

笑い合った

 

 

壱嶋に抱き締められ

縁側の月明りの中で

二人は

いつまでも互いの温もりを感じていた・・・・

 

 

 

 

つづく・・・・・

 

 

こんにちは

 

 

ぺこ <(_ _)>

 

アメ限ギリギリの話が進み、ドキリとしたかな?

忍は、壱嶋に抱かれる時だけ、22歳の年相応の忍に戻ります

幼い忍ではない、その時を壱嶋は、待ってました

 

初めて過去を語る忍・・・

幼すぎて、人を愛する意味も分からず、敵対する不良グループのリーダーたちと仲良くなっていたのです

「人の懐に容易く入り惑わす」

源真の言葉通りに、忍は、二人を虜にし、それを知った二人は、命を懸けて忍を奪い合うのです

結果、大乱闘に発展し、どれだけの人が傷付き、命が奪われたのでしょうか

 

面倒を見た姐さんは、最後の情で忍を介抱します

しかし、治った時、冷たい言葉で忍を突き放します

 

さて~壱嶋邸ですが、この屋敷は、広島県にある「森川邸」でございます

とても素敵なお屋敷です

いつか「大正ロマンツアー」で行きたい場所が増えました(笑)

 

仕事三昧の日々で、なかなか自由な時間が取れない毎日です

皆さまはいかがお過ごしですか?

 

では、今日は、この辺で・・・

 

マタネッ(*^-゜)/~Bye♪