黄色い花

 

壱嶋が部屋に戻ると

倒れていた男が

逃げようとしていた。

 

 

 

「貴様!!」

 

 

素早く

男の胸倉を捕まえ

床に投げ飛ばした。

 

 

 

「うわ~!勘弁してくれ!!」

 

 

「忍の力が弱くて命拾いしたな・・・だが私は、容赦しない」

 

「や、やめろ!やめてくれ!」

 

 

抵抗する男に

壱嶋は

何度も殴り掛かった。

 

 

「忍がどれだけ抵抗したか・・

貴様も抵抗してみせろ!」

 

 

 

「う、う・・・・俺は、誘われただけだ」

 

 

「貴様!この期に及んで!」

 

 

 

 

その顔が分からなくなるほど

何度も殴った。

 

 

 

 

「もういいでしょ」

 

 

腕を掴まれ

振り向くと

一馬だった。

 

 

「警官が来てますよ・・・」

 

 

 

 

「こ、こんな・・・ひどい・・・」

 

豆丸が部屋の様子をみて

愕然とした・・・

 

 

「壱嶋さま!忍くんは?!」

 

 

 

 

 

大勢の警官が

その男を取り押さえた。

 

 

 

「忍は、軍医に診せてる・・・

意識は、ある・・・大丈夫だ・・・」

 

 

「・・・・あの男・・・・前に家を覗いていたっす・・・」

 

「豆丸!本当か?」

 

 

「忍くん・・・話してないっすか?」

 

 

「いや・・・・」

 

 

 

一馬は

部屋を見渡した・・・

 

 

 

 

「忍は、もともと機敏だから

男は、手こずったでしょう・・・」

 

 

まるで見えるように

男と忍の軌跡を辿り歩いた。

 

 

「忍は、身体が弱くても

元は、軍人です・・・」

 

 

抵抗の跡は

物の散乱が示していた。

 

 

 

忍が男に物を投げ付け逃げる様が浮かび

壱嶋は

首を振って払い除けた・・・

 

 

「壱嶋さま・・・ここは、俺と一馬さんで片付けます・・・

どうか、忍くんの所に・・・」

 

 

「すまない・・・豆丸、一ノ瀬・・・・」

 

 

「任せてください」

 

豆丸と一馬に見送られ

門を出ると

神崎が丁度車から降りてきた。

 

 

「神崎・・・・・すまなかった」

 

 

「早く行ってやってください・・

後は、私が処理します・・・」

 

 

頷くと

壱嶋は

車に乗り込んだ・・・

 

 

 

~壱嶋さん!壱嶋さん!嫌だ!嫌だ!~

 
 
 
 

泣き叫ぶ忍の姿が蘇り

壱嶋は

唇を噛み締めた・・・

 

 


 

 

たまらず

消し去るように

目を瞑った・・・

 

 

 

 

 

壱嶋は

軍に戻ると

足早に隣接する陸軍病院の中に入った。

 

 

目の前で腕を組み

こちらを一瞥する軍医の達樹だった。

 

 

「壱嶋中佐・・・・一般人は

ここでの診察は出来兼ねます

以前もそう申したはずです」

 

 

「忍は?どこだ」

 

 

「人の話、聞いてるのですか?」

 

 

つかつかと廊下を進み

診察室へと入るが

そこは無人だった。

 

次々と部屋に踏み込む壱嶋に

根負けし

ある病室の戸を開けた。

 

 

「こちらです」

 

 

 

眠っている忍は

壱嶋の軍服を抱き

眦に涙を滲ませていた。

 

「怪我は・・・・」

 

 

壱嶋は

忍の間近で椅子に座った。

 

 

 

「擦り傷に、多少の打撲はありますが・・・

命に係るものではありません」

 

 

「そうか・・・」

 

 

「気が高ぶっていたので

薬で眠らせました」

 

~壱嶋さん!壱嶋さん!~

 

何度も泣き叫び

壱嶋を呼ぶ声が

耳から離れなかった。

 

 

「・・世話を掛けた・・・

目覚めたら連れて帰る・・・・」

 

 

 

「その子・・・」

 

 

 

慈しむように

その髪を撫で

指で涙を拭う壱嶋に

言葉を止めた・・・

 

 

軍を率いる男が

年端も行かぬ子に

翻弄され

その肩を落としている

 

 

そんな姿をかつて見たことがあっただろうか・・・

 

 

 

 

「達樹・・・・」

 

 

「な、なんですか?」

 

 

突然、学生時代の呼び名で呼ばれ

達樹は

動揺した。

 

 

 

「友として忍を頼めないか・・・」

 

 

「・・・!」

 

 

 

「忍をこれからも診てやって欲しい・・・」

 

 

 

「・・・主治医ってことですか?」

 

 

 

「・・・あぁ・・・忍の事情を知ってるお前が診てくれるのなら・・・・」

 

 

「事情ってなんですか?

身体が弱いって事と

腹部の刺し傷しか私は、知らない」

 

 

 

「・達樹・・・・・」

 

「・・・・心の傷は、治せません」

 

「確かに・・・忍は、何かを抱えてる・・・」

 

 

「分かっていて・・・その子をどうするつもりですか?」

 

 

 

 

「・・・・私の側に置き

一生面倒を見るつもりだ」

 

 

「!!・・・・・一生?」

 

 

 

「ああ・・・これからは、人として

幸せな暮らしをさせたい」

 

 

「壱嶋さん・・・・」

 

 

 

 

「頼む・・・・信頼出来るお前に・・・」

 

 

 

微笑みの中に

哀しみを滲ませていた・・・

 

 

傷付いた忍より壱嶋の方が

倒れそうなほど

憔悴して見えた。

 

 

 

 

「それほど・・・・」

 

 

 

 

達樹は

白衣のポケットから懐中時計を取り出し見つめ

大きくため息をついた・・・

 

 

 

「壱嶋中佐・・・分かりました

その子は、私がこれから診ましょう」

 

 

「頼めるか?・・・感謝する・・・・」

 

 

 

その時

忍が目を覚ました・・

 

「忍?目が覚めたか?」

 

壱嶋の姿を見た途端

その腕を伸ばし

ふわりと抱き付いた・・・

 

 

「壱嶋さん・・壱嶋さん・・・・俺・・・・・

ごめんなさい・・・ごめんなさい・・」

 

 

「謝るな・・・ほら、もう帰ろう」

 

 

「うん・・・・」

 

 

忍は

達樹に目を留めた・・

 

大人びた表情に

達樹は

ドキリとした・・・

 

 

「・・・・・・」

 

 

ゆっくりとベッドから降りると

白い脚が露わになった。

 

 

頭を下げる忍は

綺麗で儚げで

以前とは

印象が変わっていた。

 

 

 

「歩けるか?」

 

 

「うん・・・大丈夫」

 

 

「これから達樹が、お前の主治医だ・・」

 

 

 

「主治医?」

 

 

 

「お前は、身体が弱い・・

こんな怪我もする

何かあったら頼りなさい」

 

 

「あ・・うん・・・分かった」

 

 

忍は

達樹に近付き

綺麗な笑みを浮かべた

 

 

 

「達樹先生・・・これからよろしく」

 

 

差し出す白い手に

達樹が

躊躇いながら握り返した・・

 

 

冷たい手だった・・・

 

 

壱嶋が居ないと

子供のように泣きじゃくった顔は

目を奪われるほど綺麗な笑みに変わっていた。

 

 

 

「さあ・・行こう」

 

 

「うん!壱嶋さん」

 

 

 

どれだけ壱嶋を愛してるのだろう・・・

 

 

その手は

壱嶋の腕に絡め

見上げる瞳は

壱嶋なしでは、生きられないように見えた・・・

 

 

 

 

人を惑わす・・・

 

 

 

 

一瞬、達樹は

同じ雰囲気の人を

思い出した・・

 

 

 

妖しげに

その身から迸る何かに

幾人々を虜にしたあの人・・・・

 

 

 

今、どうしてるのだろう・・・・

 

 

「達樹・・・」

 

 

 

物思いにふけっていた達樹は

我に返った・・・

 

 

 

「な、なんですか?」

 

 

「この事は、日誌に書き記さないでくれ」

 

 

「わ、分かってます・・・・」

 

 

「忍・・お腹空いただろう~」

 

 

 

「ううん・・・・」

 

 

首を振る忍に

優しく話す壱嶋の姿が

不思議な光景に映った。

 

 

 

「食べないとまた風邪を引くぞ・・・」

 

 

「・・分かってるよ・・・

でも、家の中が・・・」

 

 

「今、豆丸と一ノ瀬が片付けてくれてる」

 

 

「ほんと?じゃ、早く帰らなきゃ」

 

 

「そうだな・・・」

 

 

 

「達樹先生・・ありがとう」

 

 

「あ・・ああ・・・お大事に・・・」

 

忍に手を振られ

思わず

達樹も手を振り返した・・・

 

 

 

達樹は

二人が帰った後も

魂が抜けたように

立ち尽くした・・・

 

 

 

「遠いが歩いて帰るぞ」

 

 

「うん・・」

 

 

足を引きずり歩く忍を

壱嶋は

思わず背負った。

 

「うわ~!壱嶋さん・・」

 

 

「どこか痛くないか?」

 

 

「大丈夫・・・・」

 

 

肩にその頬を乗せ

壱嶋の温もりを全身で感じた・・・

 

 

 

 

 

「壱嶋さんの背中・・居心地いい・・・・」

 

 

「忍、今日のあの男・・・知り合いだったのか?」

 

 

「えっ?うん・・・何度か話し掛けられた・・・」

 

 

「なにを話した?」

 

 

「寂しいのかい?って聞かれた・・・

話し相手になってもらった」

 

 

~誘われたんだ!~

 

 

 

 

男の言葉は

偽りではなかったのか・・・・

 

 

 

「忍・・・むやみに人と話すな・・」

 

 

 

「・・・俺のせいなの?・・・

俺・・・知らずに何か悪い事したの?」

 

 

 

 

「忍・・・・」

 

 

 

二人の間に沈黙が流れた・・

 

 

 

 

 

忍は

一言呟いた・・

 

 

 

 

「やっぱり俺・・・災いの子なんだ・・・」

 

 

 

「忍?」

 

 

 

「昔、そう言われた・・・・」

 

 

「誰に言われた?」

 

 

壱嶋の背中で

微笑むのが分かった。

 

 

 

「だから、一人で生きることを決めたんだ・・・」

 

 

壱嶋は

思わず立ち止まった・・・

 

 

 

 

つづく・・・・

 

こんにちは~

 

ぺこ <(_ _)>

 

遅くなりました~やっと仕事で、なんとか週二回の休みをゲット~

至福の時~(人´∀`).☆.。.:*・゚

 

今回から、軍医の達樹が忍の主治医となりました。

どこか不思議な少年だった忍は、いつの間にか妖しげな雰囲気を纏い、達樹の前に現れた・・・

少年から大人になる危うさが、昔見たある人と重なります・・

さて、誰でしょう

 

達樹の苗字・・以前決めたのに、忘れました。誰か知っていたら教えてください。

コメント欄で呟いたような気がするのだけど・・・・

 

まだまだ一波乱ありそうです。

お付き合いくださいね~

 

では、皆さまにとって素敵な一日になりますように・・・・

 

マタネッ(*^-゜)/~Bye♪