黄色い花

 

 

 

「壱嶋中佐・・・その後、忍との暮らしはいかがですか?」

 

 

 

帰宅の車の中で

神崎が声を掛けた。

 

 

 

 

 

「ああ・・・今日も朝から皿を3枚割られた・・

この調子だと家中の皿を割られそうだ」

 

 

 

 

「・・・はは・・・最初は、そんなものですよ」

 

 

 

 

 

 

~ごめん・・壱嶋さん・・また割っちゃった・・・~

 

 

 

 

すまなそうな顔の忍は

いつものように幼く感じた・・・

 

 

 

 

 

 

門に立ち

壱嶋を待つ忍の姿が見えた。

 

 

 

こちらに

気が付くと

嬉しそうに手を大きく振った・・・

 

 

 

「忍が待ってますよ」

 

 

 

 

神崎の含みのある声に

壱嶋は

聞こえぬふりをした。

 

 

 

 

子供のように

飛び付いて帰りを喜ぶ忍・・・

 

 

 

 

「ねえ、ねえ~今日は、遅かったね」

 

 

「あぁ・・大佐に捕まっていた」

 

 

「ねえ~ねえ~今日は、お魚焼いたよ~

ちょっと焦げたけど」

 

 

腕に腕を絡ませ

忍は

どれだけ待ち侘びたのか

身体中で嬉しさを表した。

 

 

 

 

その笑顔

真っ直ぐな瞳

無邪気に甘える全てが

壱嶋にとって

愛おしかった・・・・

 

 

 

~俺は、22~

 

 

 

 

 

あの時の忍の大人びた表情が

壱嶋の脳裏に焼き付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

縁側に座り

地面に書いたそれは

忍の過去だった。

 

 

 

 

 

 

記憶に残る忍の節目が

そこに書き記されていた。

 

 

 

 

 

 

「この時に、じっちゃんが10歳だって教えてくれた」

 

 

「じっちゃん?」

 

 

「うん、臍の緒が付いた赤子の俺を

拾って育ててくれた人」

 

 

「忍・・・・」

 

 

語られる生い立ちに

壱嶋は

思わず固唾を飲んだ。

 

 

 

 

 

「じっちゃんは、壊れた古寺で

俺や

身寄りのない者たちと暮らしていた・・」

 

 

 

 

 

「これは、何?」

 

 

壱嶋は

忍の隣に座り

肩を抱き

地面の数字を指差した。

 

 

 

 

 

「じっちゃんが死んだ

10歳って言われてから

秋を・・四つ越えたから・・・」

 

 

 

 

「忍が14歳か」

 

 

 

 

「うん・・・そうなるね・・・・その後みんなチリチリバラバラになった」

 

 

 

 

「忍は、それからどうやって生きてきたんだ?」

 

 

「町に行くと悪い事をしてる仲間に誘われた」

 

 

「盗みとか?」

 

 

「そうだね~いろいろと教わったよ」

 

 

 

 

「・・・・・これは?・・」

 

 

忍は

枝でその数字をなぞった。

 

 

「一人で生きるって決めた・・・

2年経っていたから・・16歳のとき・・」

 

 

 

そこだけが

枝で何度も

塗りつぶされてるように感じた・・・

 

 

 

 

「何故一人で生きると決めたんだ?」

 

 

 

「・・・・・・・」

 

 

 

「忍?」

 

 

 

「壱嶋さん・・・俺の歳を知りたがっていたから数えてみただけ・・・

俺は、何もないし・・覚えてない」

 

 

「・・・・・・」

 

 

忍の表情は

読めなかった・・・

 

 

 

 

覚えていないのだろうか・・・

思い出したくないのだろうか・・

 

 

 

壱嶋は

忍を強く抱き締めた。

 

 

 

「毎年、季節を感じて生きろってじっちゃんに言われていた・・・

桜の咲く頃

新緑が茂る頃

葉が真っ赤に染まる頃

寒さで身を縮めて過ごす頃・・・」

 

 

 

「それで一年を感じていたのか?」

 

 

「・・・・・桜の咲く頃、俺を拾ったって・・・」

 

 

 

「22歳になったのは、あの花見の頃か・・・」

 

 

「・・・そうだね・・・」

 
 
「一人で過ごして寂しくなかったのか?」
 
「・・・別に・・・・」
 
 
忍の声音も
その表情も
変わらなかった・・・
 
 

 

 

 

「俺の歳を知って何か変わるの?」

 

 

 

「いや・・・ただ知りたかっただけだ」

 

 

「変なの・・・・知らなくたって俺は、俺だよ」

 

 

「あぁ・・・お前は、お前だな・・・

でも私は、嬉しい」

 

 

「嬉しい?」

 

 

「ああ・・・忍の事は、なんでも知りたい」

 

 

「・・・・・・・」

 

 

一瞬忍は

驚いたような顔をした・・・

 

 

 

「愛する者の事は

何でも知りたい・・」

 

 

「そうなのか・・・・」

 

 

 

俯き忍は

少し難しい顔で考えていた。

 

 

「俺は、壱嶋さんが居ればいい・・・

何も知らなくていい・・・」

 

 

その言葉は

もう聞くなと拒絶してるように思えた。

 

 

 

 

 

その手を壱嶋の背に回すと

忍は

月明りでもわかるほど

甘える瞳を見せた・・・

 

 

 

「忍・・・・」

 

 

 

その瞳は

妖しく潤み

壱嶋を虜にした・・・・

 

 

 

 

 

 

 

ある休みの日

忍を連れて買い物に出掛けた。

 

 

町は、大勢の人で賑わっていた。

 

 

 

皿を選んでいると

いつのまにか忍の姿がなく

どこかで声が聞こえた。

 

 

 

「は、離せ!・・」

 

 

その声に

壱嶋は

その姿を捜した。

 

 

「忍・・・お前、生きていたのか?」

 

 

「・・・・・」

 

 

「あの頃よりずいぶん綺麗になったな・・・

今、何をしてるんだ?」

 

 

「私の連れだ・・・離しなさい」

 

 

「なんだ!お前」

 

 

「壱嶋さん!俺・・・・」

 

 

 

「ほう~なるほど・・・あんた、こいつには気を付けなよ」

 

 

「何?」

 

 

「可愛い顔して、とんだ食わせ者だからな・・・

命は、大切にした方がいいぜ・・・

こいつに関わると痛い目みる」

 

 

 

「違う!!」

 

「心配無用だ・・・さっさと行け」

 

ちっと舌打ちをし

その男は

足早に行ってしまった。

 

 

 

「忍?・・・」

 

 

「俺・・・俺・・・・」

 

 

しゃがみ込み

耳を塞ぎ

肩を震わせていた。

 

 

「ほら、ちゃんと立って・・・忍・・・・

知り合いなのか?」

 

 

忍は

首を振って否定した。

 

 

 

男の言葉と

顔をこわばらせる忍・・

 

 

 

「私が居る・・・心配するな」

 

 

「うん・・・」

 

 

人目も憚らず

忍は

壱嶋の腕にしがみついた。

 

 

 

 

 

 

「忍くん・・・最近凄く綺麗になったっす・・・」

 

 

 

豆丸が

忍をまじまじと覗き見た。

 

 

「な、なに言ってる?俺は、変わらない」

 

 

「いや、全然違う・・・なんて言うか・・・・

愛されて艶を増すって言うか・・・・」

 

 

 

「き、気持ち悪い・・・・・やめろよ」

 

 

忍は

顔を背けた。

 

 

 

「肌もツルツル~♪

壱嶋さまにたくさん愛されて・・・」

 

 

 

「豆丸!いい加減にしろ」

 

 

っと言ったのは

一馬だった。

 

 

「一馬さん・・・だって・・・」

 

ペチっと頭を叩くと

一馬は

酒蔵に行ってしまった。

 

 

「豆ちゃんだって一馬さんに愛され

ますます可愛いよ」

 

 

「可愛いっすか・・・・それじゃ~嫌っす・・

やっぱりお京さんみたいに・・・」

 

 

ペチっと

今度は忍が

豆丸の頭を軽く叩いた。

 

 

「もうお京さんの話は、やめて」

 

 

「はいはい~それより何かやりたいこと見つかった?」

 

 

 

「・・・・・・さっぱり」

 

 

 

壱嶋は

毎日家に居る忍を気にし

何かやりたい事を見つけるよう言われた。

 

 

 

「ねえ~日舞はどう?

こんな感じ・・・」

 

 

 

 

豆丸がその場で

日舞を披露した。

 

 

「豆ちゃん・・・上手・・・・」

 

 

 

「俺、今、お京さんに頼まれて

茶屋の子たちにお稽古してるっす」

 

 

「また、お京さん・・・」

 

 

ムッとした顔で

その場に立つと

豆丸を真似して

踊って見せた。

 

 

「ぷ、はははは・・・忍くん、へたくそ~」

 

 

更に忍は

頬を膨らませ

 

 

「俺は、日舞は、絶対しない!!」

 

 

「ああ・・・ごめん・・・・稽古すれば・・・・」

 

 

「いい!!俺は、家で壱嶋さんを待ってる!」

 

 

「はあ・・・・・そんな事言わずに・・・・・・」

 

 

 

「もう帰る!!」

 

 

「あ、今日の献立・・・考えてあげる」

 

 

豆丸も忍と一緒に

壱嶋の家に向かった。

 

 

門から覗き込む男が居た。

 

 

「何か用?」

 

忍が声を掛けると

その男は

今にも襲い掛かりそうなほど

目をぎらつかせた。

 

 

側に豆丸が居るのを知って

慌てて逃げていった。

 

 

「忍くん・・・あの男・・・・」

 

 

 

「最近、うろついてるんだよね

物盗りだろうか・・・気を付けないと・・・」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

勘のいい豆丸は

男の目が

忍に対し向けられてることを知った。

 

 

「忍くん・・・壱嶋さまにちゃんと話して・・・

一人で居るときは、戸締りしないと駄目だよ」

 

 

 

「ん?うん・・・それより今日は、何を作る?」

 

 

にこやかに笑う忍に

豆丸は

一抹の不安を感じた。

 

 

 

 

つづく・・・

 

 

平成最後の更新~v( ̄Д ̄)v イエイ

 

そして、平成最後のお休み~♪

 

皆さま~こんにちは

 

ぺこ <(_ _)>

 

日々の忙しさに元号が変わろうと、なんの感慨もない・・・っと思っていたけど

なんだか気持ちが焦る・・(^▽^;)

平成の最後に何かをしなきゃ・・・(笑)

平成を振り返ると子育て頑張って、良く働いてきた(笑)

まおくんに出会えた事やここで出会えた皆さまとの楽しい語らい~嬉しかったです(^▽^)/

 

話は、忍がみょ~に色っぽくなり、なにか起きそうな予感・・・

知らずに人を虜にする妖しい色気が出てることを、忍は、気が付きません。

さて~どんな展開になるか~

令和の時代まで乞うご期待~(^_-)vブイブイッ

 

 

マタネッ(*^-゜)/~Bye♪